持続可能な伝統産業をつくるため。銘酒「真澄」の若旦那が地域おこしに取り組んだ




業界の常識に囚われない。自分たちだからこその酒造りを


ロンドンでの修行を終え、私は帰国して家業を継ぎました。幼い頃から見ていた家業でしたが、経営に参加すると抜本的に変えるべき箇所が、いくつも見つかりました。

その一つが、価格設定です。

美味しい日本酒をつくるためには相応の原価がかかります。しかし当時の価格設定は「業界ではこれくらいだから」と原価に見合わないものにしてしまっていた。十分な販促費が確保できず、利益も少ない。社員のやりがいや組織風土にも影響を及ぼす問題でした。

加えて逃れられない事実がひとつ。日本酒業界にとって最大の顧客であった団塊の世代が、数年のうちに市場から徐々にいなくなっていく、ということです。

「このままでは事業が衰退してしまう。そんな未来だけは避けたい」、そう、強く思ったことを覚えています。では、まず何をするべきか。根本から変えるため、宮坂醸造の新たなフィロソフィーを掲げました。

「人 自然 時を結ぶ」

これは、代々大切にしてきた宮坂醸造の哲学である「奇抜な個性を売り物にしない。心を磨き、人を育み、米を選んで、本物だけを求め続ける」から生み出されました。

この理念を実現するために、まず手をつけたのが酒造りそのものです。私たち宮坂醸造発祥の七号酵母を使った酒造りにシフトし、一貫したフィロソフィーを感じさせる商品への改革を進めました。

私が家業を受け継ぐ前は、主要な市場となる大都市で華やかな香りの日本酒が好まれました。そのトレンドを追った酒造りを続けたことで生まれてしまった一貫性のない商品ラインナップ。脱却への足掛かりとして選んだのが、宮坂醸造発祥の七号酵母だったのです。

トレンドである華やかさな香りとは逆に、七号酵母の特徴は食事を引き立てる穏やかな味わいを作り出すこと。自己主張しすぎないその特徴が、「人 自然 時を結ぶ」という新しい理念にも合致したことで、七号酵母に軸をおいた商品開発に迷いなく進むことが出来ました。

並行してブランド発信強化も行いました。良いものを作っているだけでは売れない時代。酒蔵の歴史やフィロソフィーを伝えるために、Webサイトの改修を行いました。また、SNSや動画の活用をはじめ、ターゲティング広告の運用も始めています。


宮坂氏がディレクションした、宮坂醸造の七号酵母を使った日本酒「真澄」Webサイト

これらの施策には多大なエネルギーと時間を必要とします。しかし振り返ると祖父も父もそれぞれの時代に合わせた転換や挑戦を繰り返してきた結果、今日の真澄がある。宮坂醸造を継ぐものとしての使命感を持って取り組んでいます。

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文=鈴木雅矩

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