持続可能な伝統産業をつくるため。銘酒「真澄」の若旦那が地域おこしに取り組んだ


地域の人と共に「豊かな諏訪」をつくり、発信することの大切さ


家業のアップデートを続けるうちに、私は地域の持続可能性についても考えるようになりました。

なぜならは酒造りはその土地そのものが味わいの要素となるからです。日本酒は同じ原料を使っても、蔵がある土地の風土と水で味を変えます。だから宮坂醸造の酒は、諏訪でしか作れません。

さらに酒造りは職人である蔵人の力量に負うところも大きい。真剣に仕事に打ち込み、確かな技術を持つ蔵人がいれば、良いものができます。

優秀な蔵人が心身ともに充実した状態で働くためには、彼らとその家族が豊かに生きることが出来る地域であり続けなければならない。だからこそ、諏訪を小さくとも強い地域にできればと考えているのです。

具体的な活動としては、食や街並みを通じた地域の魅力創造と発信です。私は伝統食品の製造に関わっていますし、立場上、食を通した施策にも関わりやすい。そこで地元の旅館や飲食店と共に、諏訪でしか食べられない食材や調理法を使ったメニューを開発・提供し、県外に向けてPRすることも活動の一つですね。

経済的な大都市を目指すのではなく、フランスのボルドーのような美しく魅力的な地方のモデル地域となること。それが諏訪で暮らす人々への恩恵につながり、ひいては宮坂醸造にとっても大きな強みになるのではなると考えています。



また2013年には日本各地で出会った伝統食品の若き担い手と共に「HANDRED」というユニットを結成しました。

実は、日本で製造・消費されている醤油や米酢のほとんどは伝統的な製法では作られていません。私たちユニットメンバーは、日本の歴史ある製法と味わいを途絶えさせたくないという思いから、様々なイベントやWebサイトを通じてものづくりへの思いを発信しています。

2019年にはキリンビールが主催するCSR活動『地域創生トレーニングセンタープロジェクト』に参加しました。日本各地で食を通じて、地域創生を行う様々なプロデューサーと関係性を築いたり、地域を盛り上げるアイデアや課題解決のケーススタディを得ることができました。

参加メンバーとは今でも毎週のようにオンラインミーティングを行い、経過報告を行なっています。場所は違っても、共に地域振興に関わる人と繋がることができ、活動の励みになっていますね。

地域振興やブランディングはすぐには成果が出ませんし、長期間にわたり地道な活動が求められます。苦労して活動を続けても、ファンになってくれる人は100人のうち1人いるかいないか。しかし、理念を徹底して事業に落とし込み、地道にファンを増やし繋がり続けることこそ、我々の事業やまちづくりにおいて必要不可欠だと信じています。

昨今ではコロナショックが起こり、自宅で過ごす人が増えました。SNSを見れば自炊を楽しむ人が増え、食への関心も高まっている。さらに今後は密である都市部から地方への移住を考える人が増えていくでしょう。そうした中で、選んでもらえる酒と地域になれるよう、諏訪と宮坂醸造の明るい未来づくりに邁進したいですね。


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文=鈴木雅矩

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