東京は国際金融センターになれるのか


人材を引き寄せる東京の優位性は、治安の良さと住みやすさだ。きれいな空気、おいしい水や食品が容易に安価に手に入る。レストランだって、世界でいちばんミシュランの星の数が多い。美術館や、オペラ、オーケストラの質も、アジアでは群を抜いて高い。不動産、住居、ホテルも、香港やシンガポールに比べれば安価だ。

アベノミクス以前の20年以上にわたるデフレと経済停滞で、物価、賃金、不動産価格は、相対的に非常に安くなった。外国人のビジネス・観光に人気があるのには理由がある。
 
しかし、問題は、外国金融機関や人材が日本に住んで、日本からアジアや世界を相手に取引をするか、ということである。これには2つの大きな障害がある。

第一の障害はビジネスや生活で接触を必要とする人たちのなかに、英語が堪能な人が少ない、ということだ。金融の幹部・管理職人材のみならず、システム・エンジニア、リサーチ・アシスタント、一般事務職で英語が堪能な人材は数が少ない。またビジネス上必要な、会計士、税理士、法務(弁護士)で、バイリンガルな人材が少ない。

生活するとなると病気になったときに英語で対応可能な病院・医師・看護師が欲しい。片言でも英語ができる家政婦(ヘルパー)も必要だ。子弟の教育も心配だ。インターナショナルスクールは限られるし、日本の教育システムに入れると先生との英語でのコミュニケーションも難しい。英語が公用語の特区でもつくれるだろうか。
 
第二の障害は、税金だ。日本の居住者となり、個人の所得税を日本で払うことになると、その税率はシンガポールよりもはるかに高い。特区をつくって、数年間は、個人所得税の税率が低くなるような税額控除を導入できるかがカギになる。


伊藤隆敏◎コロンビア大学教授・政策研究大学院大学特別教授。一橋大学経済学部卒業、ハーバード大学経済学博士(Ph.D取得)。1991年一橋大学教授、2002〜14年東京大学教授。近著に『Managing Currency Risk』(共著、2019年度・第62回日経・経済図書文化賞受賞)、『The Japanese Economy』(2nd Edition、共著)。

文=伊藤隆敏

この記事は 「Forbes JAPAN No.076 2020年12月号(2020/10/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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