東京は国際金融センターになれるのか

香港で国家安全維持法が施行されたことで、政権に批判的ととられるような意見表明にはリスクが伴うようになった。さらに、法律に違反した場合には、裁判のために中国本土に移送される可能性も出てきた。

これは外国人にも適用される。これまで、一国二制度により保障されていた自由がなくなったことで、多くの金融人材の流出が起きるのではないか、という懸念が起きている。
 
このような香港からの流出人材の受け皿に東京がなり、東京の金融機能を強化しようという動きがある。自民党では、成長戦略の一環として、外国から金融人材を呼び込んで、東京を国際金融センターにしようという提言が出されている。
 
国際金融センターとは、多くの通貨で、銀行業・保険業・証券・資産運用などを行う世界的な金融機関が集積して、活発な金融取引、資金調達、資産運用が行われている都市と定義できる。ニューヨークとロンドンは世界の2大金融市場である。アジアでは、東京、香港、シンガポールが国際金融センターに挙げられるが、それぞれ一長一短がある。

東京は世界第3位のGDPを誇る国内市場がある。豊富な資金量をもつ大きな金融機関が存在している。株式市場も世界3位の時価総額を誇る。しかし、外国為替市場の取引では、10年前は香港、シンガポールよりも大きかった通貨取引高が、昨年には香港、シンガポールの3分の2以下、と、大きく差をつけられて、アジア3位に落ちた。

東京では、ドル円の取引は活発だが、それ以外の通貨の取引では、ほとんど香港、シンガポールの後塵を拝している。東京はドル円に特化した巨大なローカル市場といえる。ヘッジファンドなど資産運用系の金融機関もアジアの主要な活動拠点は香港かシンガポールに置くことが多い。
 
香港からの脱出を考える人材や金融機関が出てきたとして、彼らが、シンガポールではなく、東京を選択することはあるのだろうか。

東京の魅力は、先に挙げた、豊富な円による資金調達、日本株取引、流動性の高いドル円取引である。しかし、このような取引は最近はアルゴリズムを搭載したコンピュータを取引所の近くに据え付ければ(コロケーション)、人が東京に常駐する必要はない。金融人材が日本に居住して、ロンドン・シティーやニューヨークのウォール街やミッドタウンのような賑わいを見せることがあるだろうか。
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文=伊藤隆敏

この記事は 「Forbes JAPAN No.076 2020年12月号(2020/10/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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