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2020.11.08

「魚の価値」に革命を。神経〆のプロ長谷川大樹

「さかな人」代表 長谷川大樹氏


ひょいひょいと数秒で処理していく長谷川氏を見ていると簡単そうだが、慣れないうちは、活きの良い魚だけに、水から出されて暴れるので時間がかかり、なかなかに難しそうだ。「魚には、落ち着く触り方があるんです」と、長谷川氏が触ると、水から出しても魚は大人しい。



近年のサンマの価格の高騰からもわかるように、魚の水揚げが激減している現在、長谷川氏は幼魚までも一網打尽にする巻き網などの漁法に異を唱える。

「技術が進化した今は、何千万円もするレーダーやドローンを使って魚群を捉えて、船で取り囲み、目の細かい網で丸ごと全部獲ってしまう。小さな魚は大して高く売れるわけじゃないから、持ち帰ってもしょうがないと死んだのを海上投棄することも多い。だったらせめて、網の穴を大きくして逃がし、大きく育って、ちゃんと手当てしたものを正当な値段で売る、と考えを変えないと」

ヨーロッパでは漁業監視員がマグロ漁船に同乗するなど、水産資源管理に注意が払われている。そういったルールの整備も重要だが、長谷川氏は、同時に食べる側の価値観の変換も必要だと考えている。

「魚が、『僕は安い魚です』とは言っていない。命は平等です。もちろん、個体差はありますから、状態の良いものを選んで扱いますが、聞き慣れない名前の、安い魚だからおいしくないと決め付けるのは間違っている。僕のミッションは、シェフや消費者の中で、魚の名前という『ラベル』ではなくて、『味』で魚を評価してくれる人を、もっと増やしていくことだと思っています」



今年12月には70年ぶりに漁業法が改正され、国が漁獲上限を設定する魚種を増やし、基準も「資源を維持できる最低限の量」から、「長期にわたって資源を守れる水準」へと厳しくするなど、より水産資源を守る方向に舵を切ることになる。量の漁業から質の漁業へ。私たちの価値観も、変えていく必要があるのかもしれない。

文・写真=仲山今日子

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