デジタル庁は教訓を生かせるか DX後進国の日本が歩む3つのシナリオ

Toshi Sasaki/Getty Images


日本の経産省、厚労省、文科省が共同で執筆した「2020年版 ものづくり白書」では、「DXを推進するに際しての課題として、部門縦割りであり、縦横の連携が十分に進んでいない」との指摘がされている。問題点は次のようなものだ。

・基幹系でも製造系でも、一度構築した情報システムの維持更新が目的となっている
・その情報システムの維持管理はベンダーに丸投げされ、それを管理する情報システム部門の権限下でしか費用対効果が可視化されない
・よって、前例踏襲のマネジメント対象となり、ICTやDXに精通した専門人材ではない、一般的なローテーション人事の対象部門となる

2020年の「ものづくり白書」でこれが指摘されていること自体が驚きだが、日本では、いまだに情報化投資が、歩んできた過去に引きずられた状況が散見されている。すなわち情報化投資を、基幹情報システムの維持更新や、IT関連製品を通じた市場獲得と捉えているのだ。

ただ、このような「誤解」は、ICTやDXに限らない。日本の大宗を占める企業では、イノベーション、環境経営、健康経営、危機管理などさまざまなテーマで、同様の組織構造的なミスマッチが発生している状況にある。

政府の統計も、情報化投資を有形・固定資産の領域として捉え、そのフローとストック量を設備投資の文脈でとらえることを、そろそろやめたほうがいい。先に述べたように、そのような定義あるいは解釈での情報化投資の時代は既に終わっているのだ。

むしろ、情報化投資、いまでいうDX化がもたらすさまざまな無形の資産価値を見極め、なぜ、何の目的でDX化をするのかを考える必要がある。

「ICT化/DX」への3つのシナリオ


過去の失敗の積み上げにより、いまの機能不全と国際競争力の凋落があるのであれば、それを創造的に破壊することこそ、新設されるデジタル庁の役割となるだろう。ハンコをなくし、在宅勤務を推進し、行政手続きをオンライン化するだけが目的ではないはずだ。

以下は、筆者が考え得る未来への3つのシナリオだ。

シナリオ1「真のICT化/DX」


社会や経営の変革ドライバーとしてDXが活用され、価値観・行動様式ともに、ニューノーマル(新しい常識や常態)を迎える
・都市など、特定の「場」への依存が解放され、社会や行政機能の分化が意欲的に行われる
・業務の自動化が進展し、「ヒト」が関わる業務の選別が行われる。「ヒト」が関わる業務は、プロセスよりも結果に焦点が置かれる
・ICT化/DX化に携わる専門人材を意思決定者が信頼し、イノベーターとして自由と権限を付与する
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文=蛭間芳樹

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