経済・社会

2020.11.19 08:00

知っておきたい写真著作権 「似ている」と「侵害」の距離

林ナツミ「本日の浮遊」2010年12月16日 出典:よわよわカメラウーマン日記

スマホやネットに親しみ、写真や映像を撮影してSNSやプログなどで発信したり投稿したりすることが日常となっている昨今、写真は現代人にとって最も身近な創作物となっています。そこで、知っておいたほうがよいのが、著作権についてです。

上の写真は林ナツミさんの「本日の浮遊」というセルフ・ポートレート作品で、ご本人がジャンプした瞬間を撮影した写真シリーズです。日記形式でウェブサイトに掲載する、という方法で発表されました。林さんが浮遊しているのですが、すべて合成ではなく、時には300回も実際にジャンプして力の抜けている瞬間を撮影したそうです(※1)。

日記形式で本格的に発表し始めたのは2011年1月1日からで、その後、「本日の浮遊」はニューヨーク・タイムズなど世界中で取り上げられました。

林さんは、浮遊のテーマについて、地球の重力を無視することでしょうか(笑)、とインタビューで語っています(※1)。

「重力」というのはだれしもが共有できる、逃れることのできないものです。それぞれの逃れることのできないもの、今の悩みであったり、抱えている問題であったりを「本日の浮遊」に重ね合わせて、そこからの自由や解放を感じ取って多くの人の共感が生まれたのかもしれません。日記形式で日常的に解放され続ける、というのもこの作品の大事な特徴になっているのでしょう。

さて、少し前ですが2013年に、リプトンのCMで、浮遊写真が使われており、ツイッター上では「『本日の浮遊』かと思った!」との声が上がりました。ただ、特に何らかの紛争になったという報道はありません。

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リプトン「ココロふわりキャンペーン」(2013) 出典:森永乳業ウェブサイト

この事例をひとつの素材として、著作権法の考え方をご紹介したいと思います。

「依拠」と「類似性」


少しだけ法律用語の説明となりますが、著作権の侵害と言うためには、「依拠」と「類似性」が必要です。

「依拠」というのは、他人の著作物に接し、それを自己の作品の中に用いること、と説明されます。つまり、全くの偶然で似た作品をつくっても、著作権侵害にならないということです。たとえば、観光地の写真では、撮影スポットがある程度限定されるため、偶然似た写真になることはありえます。

実際にあった事例(※2)では、フォトグラファーのSarah Scurrさんがチリのサンラファエル氷河を被写体とした写真を2009年の写真コンテストに出したところ、6年後に他のアマチュアフォトグラファーMarisol Ortiz Elfeldtさんから「自分の写真の盗作である!」と指摘されました。
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文=木村 剛大

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