知っておきたい写真著作権 「似ている」と「侵害」の距離

林ナツミ「本日の浮遊」2010年12月16日 出典:よわよわカメラウーマン日記


ところが、コンテスト主催者が調査した結果、その2人は2006年11月6日という同じ日にサンラファエル氷河ツアーに参加しており、なんと隣通しでほぼ同じ時刻にこれらの写真を撮影したことが判明したのです。

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Sarah Scurr撮影のサンラファエル氷河の写真 出典:Oliver Smith, How an incredible coincidence sparked a Facebook plagiarism row, the Telegraph, February 2, 2015

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Marisol Ortiz Elfeldt撮影のサンラファエル氷河の写真 出典:Oliver Smith, How an incredible coincidence sparked a Facebook plagiarism row, the Telegraph, February 2, 2015

このように、偶然似た写真を撮影したケースでは、原作品に依拠していないため、どんなに似ていても著作権侵害にはなりません。

「類似性」は、作品の創作性ある部分が文字通り似ていることを意味しますが、どこまで似ていれば侵害なのかの判断は難しい問題です。しかし、基本的な考え方のポイントはありますので、以下で事例を紹介しながら境界線を探っていきます。

繰り返しになりますが、類似性は、写真の創作性ある部分の共通性を考慮することになります。それでは写真の創作性(オリジナリティ)はどこにあるのでしょうか? 大きく分けるとふたつの側面があります。

まず、構図、露光、陰影の付け方、レンズの選択、シャッター速度の設定、現像の手法、シャッターチャンスなどの技術的工夫が考慮されます。

もうひとつは、被写体です。なお、アメリカの著作権法でも同じような考え方をしています。後ほどアメリカの事例もご紹介します。

「人為的被写体」と「自然的被写体」の区別


被写体についての重要な視点として、「人為的被写体」と「自然的被写体」の区別があります。なぜ重要かというと、被写体の共通性をどれだけ侵害判断の際に重視するか、に影響するからです。

人為的被写体というのは、撮影者が被写体自体を制作したケースのことをいいます。広告写真では商品の組み合わせ方や配置、背景、人物写真であったらモデルのポーズ、ファッション、メイクなどを撮影者が指示して撮影するケースです。

「本日の浮遊」は、林さんご本人が撮影場所やポーズを決めているので、写真の被写体を制作したということで、人為的被写体に分類されるでしょう。

これに対して、自然的被写体というのは、既存の風景や建物を撮影した写真など、撮影者が被写体の制作に関与しておらず、そこにあるものを被写体としたケースのことをいいます。紹介したサンラファエル氷河の写真がまさに典型例です。

まとめると、図1のような違いになります。


図1:人為的被写体と自然的被写体の違い

自然的被写体の場合には、被写体の共通性よりもその他の要素の類似性に重きがおかれます。実際に裁判になった事例をみてみましょう。
次ページ > 自然的被写体の有名な事例

文=木村 剛大

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