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2020.11.06

ニュースメディアが生き残る道は? 古田大輔が語るジャーナリズムの今と未来

メディアコラボ代表取締役 古田大輔氏


──メディア環境が激変する中で、報道写真の世界ではどのような変化があるのでしょうか。

僕は「世界報道写真展」を毎年見に行くんですが、世界で起きている今のストーリーを伝える傑作ばかりです。報道写真の魅力は大きく変わったとは思いません。

ただ、2013年ごろから変化がありました。2013年に大賞を獲った作品はパレスチナ自治区ガザで、ミサイル攻撃で亡くなった子どもの遺体を抱きかかえ、モスクへ向かう人びとの葬列を撮影したものだったのですが、色彩が絵画的で、宗教画のようだったのです。

この作品はフォトショップなどのソフトでかなり加工が施されているのではないか、との批判が出ました。主催する財団が、その後、加工はダメだと改めて声明を出すことになったのです。以降は生のままの写真のパワーが伝わる作品が増えたと思います。むしろ、報道写真の根本に戻っていると言えます。

今年の世界報道写真コンテストでは1979年以来41年ぶりに日本人が大賞を受賞しました。元朝日新聞カメラマンでAFP通信の千葉康由さんが撮影した「Straight Voice(まっすぐな声)」です。

昨年6月にスーダンで起きた治安部隊による反政府デモへの弾圧では、100人以上が死亡したとされています。反政府デモを取り締まるために、政府がわざと電気を切り、ネットが通じないようにシャットダウンさせた中、停電の闇の中で政府への抗議を歌う人たちを写した一枚です。

みんなで携帯の明かりを照らしながら反政府の歌を歌うという、まるで声が聞こえてくるような写真で、こういう作品を目にすると、報道写真の価値は絶対になくならないと感じます。

今、フォトショップなどで簡単に加工できてしまいフェイクを演出することができてしまうからこそ、むしろ生のリアルな写真が訴える力が強まっていると言えるかもしれません。

──情報量は増えている一方で、結局みんなに伝わる、響くコンテンツは本質的にはあまり変わっていないのかもしれませんね。海外と日本のジャーナリズムの違いについて教えてください。

海外、特にアメリカのジャーナリズムで底力を感じるのは、大学や大学院でジャーナリズム教育を基礎から叩き込むところです。これまで先人たちが積み上げてきたものをきちんと勉強できる環境がある。体系的に学ぶ場所があって、その上でお互いに業界の仲間として議論し、切磋琢磨しながら新しい取材や表現を生み出していくのは魅力的です。

日本のジャーナリズム教育や記者教育はほとんどがOJTで、実はきちんと体系的に学ぶのが難しい。一方で、日本のジャーナリズムがすごいのは、チーム取材のパワーです。海外のジャーナリストは一人で取材して書く人が多いですが、日本では新聞社をはじめ、チームで作業を分担しながら取材し、ピースを集めて事実を追いかけるパワーはすごいと感じますね。

その背景として、大きな違いだと思うのは、新聞社に限らず日本の企業は長く終身雇用制をとってきたという点です。個人のジャーナリストもいますが、生涯一つの組織で働くという長年の制度が、日本特有のチーム取材の文化を作ってきたのだと思います。
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聞き手、写真=小田駿一 構成=林亜季

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