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2020.11.06

ニュースメディアが生き残る道は? 古田大輔が語るジャーナリズムの今と未来

メディアコラボ代表取締役 古田大輔氏


──動画など情報量がより多いメディアが民主化され、大量に提供されていく中で、写真のような情報量の比較的少ないメディアの意義や価値は何なのだろうという問題意識があります。

世界中のジャーナリストが驚いたニューヨークタイムスの「Visual Investigations」というシリーズがあります。動画やアニメーションなど、テクノロジーを駆使して事実を検証する企画です。昨年発表されたコンテンツに、衝撃を受けました。

ガザでパレスチナの民衆がデモをする中で、看護師の女性がイスラエルの治安部隊に撃たれて亡くなったという悲劇がありました。イスラエル当局は不幸な事故だと説明していたのですが、広くたくさんの動画を集めて、デモ隊の動きや銃弾の動きを3Dマップに落としこんだのです。

女性を撃った銃弾の軌道を超スローモーションで調べてわかったのは、撃たれた瞬間、デモ隊は治安部隊とかけ離れた場所にいて、彼女を撃つ必要がなかったという事実でした。動画の分析や3Dマッピングを駆使したこのような調査は10年前には不可能で、今の時代のテクノロジーで可能になった報道でした。

最近では、今年の5月に警察官の拘束により死亡したアフリカ系アメリカ人の黒人男性ジョージ・フロイドが、どのようにして死に至ったのかを再現した作品があります。

こういった取材・表現手法を目の当たりにすると、表現の可能性や情報の伝達方法は変わっているなと思います。これは確かに、写真では表現しきれないことです。



もう一つ、写真の難しさについて指摘すると、すでにたくさんのコンテンツがあることです。朝日新聞の元同僚で、現在地方でフォトグラファーとして活動している先輩がいますが、「最近は写真を撮っている時間よりも、ドローンで空撮している時間の方が長い」と言っていました。

先輩の住む地方の写真はストックフォトサービスにすでに山ほどあるので、改めて撮影するニーズは少ない。ドローンの空撮のように、違う付加価値を付け加えた方が新規性もあるし商品価値も生まれます。

写真や動画に限らず、一般ユーザーが新規性も付加価値も高いコンテンツをどんどん出しています。そういう意味においては、情報で価値を生み出していくことが難しくなった時代とも言えますね。プロが手がける写真や動画の価値をどこに見出すかは、今後より厳しい競争になっていくと思います。

確かに写真は一コマしかないので、動画に比べて情報量が少ない。だから未来がないかというと、そうではないと思います。情報が限定されているからこそ人の想像を生み、想像の世界で伝わる情報量は果てしない。

スマホの普及によって、世界には写真が溢れかえっています。が、撮るのが本当に難しい一瞬を捉えた写真は、一般ユーザーにはなかなか撮れるものではありません。そういった写真のパワーや価値が落ちていくとは思えません。
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聞き手、写真=小田駿一 構成=林亜季

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