ダイレクトリスティングの記事を公開して以来、日本におけるダイレクトリスティングの可能性についてたくさんの方からご意見をいただきました。監査法人やプライベート・エクイティ・ファーム、大学関係者、投資銀行、ベンチャーキャピタルなど、様々な業界の方々から貴重な見解を得ることができて、とても感謝しています。お忙しい中、このテーマについて真剣に考えていただき、誠にありがとうございました。
皆様のご協力のおかげで、様々な新しい知見を得ることができました。中でも特に重要だと思ったのが、日本でもダイレクトリスティングによる上場が可能だという事実です。実際、1999年に杏林製薬によっておそらく日本初のダイレクトリスティングによる上場が行われました。資金調達のためではなく、創業者一族の持ち株の流動性を高めるために実行されたようです。あいにく、国内の事例としてはこれが唯一で、それ以降ダイレクトリスティングは行われていません。
いただいたご意見から、日本のスタートアップの上場に関わるいくつかの傾向が見えてきました。そのうちの1つが、公募価額が低く抑えられがちという点に関してです。証券会社はすでに上場していてベンチマークとなる類似企業の平均PERやレンジを使って公募価額を付けるため、既存類似企業に比べてユニークな事業モデル、高い収益性や成長性によるプレミアムが付いて良い企業であっても、過小評価されることがあるのではないか、という指摘です。一方で、どの程度の「プレミアム」が合理的なのか算出・説明するというのも難題ではあります。同様に、「IPOディスカウント」と呼ばれる割引もあります。証券会社は類似企業のPERの20〜30%引きで機関投資家回りをするのが業界慣習ですが、この「20〜30%」という数字の合理的な説明は難しいのではないか、との声がありました。
また、別の見方として日本のスタートアップは小型株としてIPOすることが多く、株の売却先に関して、機関投資家といっても中小型株式のファンドを運用するマネージャーに対象が絞られるため、結果として一般投資家(リテール顧客)への割当が多くなり、人気に左右されやすくなる、という指摘もありました。一般投資家のほうが投機的になりやすいので、上場初日の株価が高騰するのもそれが原因の1つかもしれません。
また、もう1つの傾向として、上場による資金調達を必要としていないスタートアップの数が日本にはまだ非常に少ないという論点の指摘もありました。現行の制度ではダイレクトリスティングと同時に資金調達を行うことができないので、日本のスタートアップからすれば、あまり意味がないかもしれません。