人々をつなぐ「橋」としての美術。スクリプカリウ落合安奈が描く夢 #30UNDER30

(c)Kotetsu Nakazato


──落合さんは映像作品もつくられています。映像は時間が動いているのに対して、写真は時間が1点で止まっていますよね。映像と写真の特性を、それぞれどう捉えていますか?

私が一番やりたいことは、時間を超える感覚というものをつくり出すことです。だからきっと、映像と写真の両方の間をやりたいと思うんですね。

写真を始めたきっかけが、大学の油絵科のときに、石橋財団の援助で行った2カ月間の海外でのリサーチでした。目的としているものを映像や写真で撮影できれば作品ができるわけじゃなく、そこに辿り着く過程で起こることもすごい大事だなとそのとき感じたんです。移動中に出会う感覚を震わせるものを常に記録して、後に作品にできるクオリティで残していかなければならないという必要性を感じたとき、写真に没頭していった経緯があります。


『北東10°』。ベトナムのホイアンで見つけた江戸時代の商人の墓は、母国の日本の方角に向けて建てられていた。彼の故郷は、朱印船貿易の時に海外に開かれていた長崎。海を隔てた2つの土地のリサーチを反映させた映像作品。「そのお墓との出会いで、それまで自分がテーマにしていた人々の中に眠る帰属意識というものと結びつきました。コロナによって『鎖国状態』にあるいまの世界とも偶然、リンクした作品です」

美術には何ができるのか


──これからの目標を聞かせてください。

この先世界がどうなるか分からないですけど、30代では作品と一緒に世界中を回ってみたいです。大きな目標として、できれば40代までか40代のうちに、ヴェネチア・ビエンナーレに出せる作家にはなっていたい、と思います。

それから、できるだけ長生きして、自分自身を拡張したいです。今つくっているものの、何十倍も深い意味を持った、多くの人に届くような作品をつくりたいと思っています。

──この先、世界がどんな社会になればいいと思いますか?

新型コロナウイルスによって、世界中で人の移動が止まってしまいました。それまでの社会の仕組みに当てはまらないことによって、隙間に落ちて、辛い思いをする人がいる状況があったかと思うんです。

もちろん人の命がかかっているので大変な時期ですし、そういうことも言っていられない状況の方もたくさんいらっしゃると思いますが、いろいろなものの流れが少しゆっくりになった時間に、人々が社会の不自然さと向き合うことで、コロナ前の課題を誰もが自分事として受け止められる大事な時間でもあると思っています。

自分も含め、立ち止まって考えられる人は、いまこのときに立ち止まって、社会のひずみを自分事として受け止められたらいいですね。必要なところを変えていくことによって、差別や偏見が世界から少しでもなくなる未来が来てほしい。それが私の願いですし、そのために作品をつくり続けています。
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インタビュー・構成=神吉 弘邦(Hirokuni Kanki)

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