蔡英文総統も異例のコメント
作品最大の見せ場ともいえるこのシーンを観ていて、私もスクリーンを正視できなくなった。それは、昨年からの香港のデモを取材してきた自分と重なってしまったからだ。
私が雨傘運動(2014年)以来取材していた香港の民主化運動は、昨年、逃亡犯条例の撤回は勝ち取ったものの、今年6月30日、国家安全維持法の施行で、完全に沈黙させられてしまう。8月10日には、民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)が、国家安全法違反で逮捕されてしまった。今後、彼女が起訴され有罪となると、最高で終身刑になる可能性すらある。
香港民主化運動は最悪の結果を迎えつつあるのだ。取材対象の思いがけない状況に呆然とする監督の様子は、そのまま私の姿であったのだ。
「このシーン(自らの号泣)については、もちろん意図していたものではありません。彼らの意外な展開は想定していなかった。結果、私は彼らたちから教えられたのです。社会運動家としての彼らに私が頼りすぎている、期待をかけすぎていると。民主化運動を支持する自分と、自分で活動する彼らとの関係性を気づかされたんです。そうしたことが私をも成長させました」
この作品のなかには、台湾のひまわり学生運動と香港の雨傘運動の主役たちが邂逅するシーンがある。陳為廷が、香港で2012年の反国民教育運動を成功させた黄之鋒(ジョシュア・ウォン)と周庭たちの学生団体、「学民思潮(スカラリズム)」を表敬訪問している場面だ。
2013年の香港の71デモのとき、その懇親の場で、香港の伝説的バンド・ビヨンドの「海闊天空」を彼らと彼女たちは一緒に歌っている。この「海闊天空」は、翌年の香港雨傘運動でも、テーマソング的に市民に歌われていた曲だ。広東語の歌詞を一緒に歌う姿は、この先の台湾と香港の絆を占っているようでもある。
民主主義という1点で、台湾の陳為廷と、中国大陸出身の蔡博芸と、香港の黄之鋒と周庭はつながっている。彼ら若者たちの関係が、そのまま東アジアの状況であれば、何の問題もないのだが。
民主主義という1点で、台湾の陳為廷と、中国大陸出身の蔡博芸と、香港の黄之鋒と周庭はつながっている。
「私たちの青春、台湾」の公開に際しては、台湾では、蔡英文総統自らが次のような異例のコメントをフェイスブック上に発表した。
「台湾では言論の自由が守られています。その映画が政治的であるという理由だけで、上映禁止するようなことはありません。自由の秘訣は勇気です。私たちは政治的な問題の本質を直視し、この勇気をもって民主主義と自由という価値観を守らなくてはいけません。(中略)台湾に興味をもっている外国人の友達も連れて、一緒に傅監督の作品を楽しんでください」
そして、救国のデジタル担当大臣であるオードリー・タンも、作品に対してこんな言葉を寄せている。
「『私たちの青春、台湾』は、運動の過程での喪失や奮闘を真摯に記録しており、民主的な社会にとって最も意義のある教訓になっていると言ってもいい。それは、単に未来を夢見るだけではなく、困難と向き合い、勇気を持って挑戦して初めて、本当に自分の進むべき道に出合うことができ、私たち自身を通して未来を呼びこむことができる、ということなのだ」
台湾の若者も、香港の若者も、自分たちの未来のために、これからも声を上げ続けるのだろう。そして、いつの日か「東アジア全体」に、その声が満ちる日が来るのを期待したい。
『私たちの青春、台湾』(監督・傅楡。2017年台湾製作)
10月31日より、東中野ポレポレ座を皮切り、全国で順次公開。
連載:Action Time Vision ~取材の現場から~
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