「知の力」は「お金」を超えただろうか? コロナ禍に見えた新しい世界への道筋

「知の力」によってこそ新しい世界の構築は現実味を帯びる(Photo by Unsplash)


翻って日本。日本は、第二あるいは第三の波に翻弄されている。

しかし、国民の多くは、疲労感を強めつつも、少なくとも初期の段階との比較において平静を保っている。政府が再び、大規模な行動規制をとる可能性は、必ずしも高くない。何故か。人々は、初期の段階の試行錯誤からすでに多くを学んでいる。医療従事者の健闘により、感染拡大の中でも、感染者が急速な重症化を防ぐことについて、ぎりぎりのところではあるものの成功している。

過去と他者からの学び、そして、それに基づき自らを調整していく力が、強靭な保健システムを構成する最も重要な要素であることがわかる。

情報技術革新の功罪


1980年、アルビン・トフラーが「第三の波」を著したとき、グローバルな情報共有と学びは、非現実的な夢物語として多くの人に受け止められた。しかし、いま、これが現実のものとなっていることを疑う人はいない。人類史上かつてないほどの規模、スピード、そして容易さで、情報が世界を駆け巡る。ICTが、「知の力」をリアルな存在に高めた。

私たちは、両刃の剣の先に立っている。一方は暗闇。権威主義的体制が、ICTを駆使して強固な監視体制を築き、人々は自由な学びと行動の機会を奪われる。権威は常に正しく、批判は許されない。もう一方には光。ICTがグローバルな学びを加速させる。私たちは、過ちを犯す存在であるが、透明性が確保された社会においては、その過ちが常に進歩の原動力となる。

コロナ禍において、明るい兆しは世界の至るところにある。身近なところで、日本の国際協力機関であるJICAが、コンテスト「アフリカのオープンイノベーションへの挑戦」を実施しアイデアを募ったところ、あっという間にたくさんの提案が寄せられた。世界中のいたるところで同様の知の結集が試みられている。

GAFAや国際機関、ベンチャーのネットワークが、ハッカソンやオープンイノベーションを企図するなど、多様なアクターによるあらゆる試みが世界各地で始まっている。ワクチンの共同開発と衡平な分配などを目指し、世界の協働を促す「COVAC」や「ACTアクセラレーター」など、未だ課題多しとは言えども、革新的な動きが現実のものとして稼働を始めている。

「新しい世界」の創造に向けて


これらのさまざまな動きが、バラバラでそれぞれ分立したままで終わるのか、それとも、人々のより良い未来に向けて、つながりやシナジーを発揮し、社会変革の力として凝集性を持つにいたるのか。

もし、先に挙げたベトナム、ブータン、野口記念医学研究所やケニアの研究所の実践などが、世界中で共有され、それぞれの土地でスケールアップされて実践されたらどうなるであろうか。「小さな成功物語」が、ICTを駆使した、透明で革新的な情報共有のメカニズムに合体することによって、「知の力」が発動され、世界中の人々の健康を守るシステムが強化されていく。

世界経済フォーラムが唱道する「グレート・リセット」あるいは、私なりの言葉で「『新しい世界』の構築」は、そこにおいて現実味を帯びる。

(この記事は、世界経済フォーラムのAgendaから転載したものです)

連載:世界が直面する課題の解決方法
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文=Takao Toda, Special Advisor to the President, Japan International Cooperation Agency (JICA)

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