ビジネス

2020.11.01

経済学の金字塔に見る 経営者の心構え

各界のCEOが読むべき一冊をすすめるForbes JAPAN本誌の連載、「CEO’S BOOKSHELF」。今回は、ミナトホールディングス・代表取締役会長兼社長の若山健彦が「資本主義と自由」を紹介する。


父が経営コンサルタントをしていたこともあり、我が家には、経営学や偉大な経営者の本が多くありました。私は、それらの本を通じて、いつしか経営に興味を持つようになっていました。

本書を読んだのは、たしか20年ほど前のことです。当時、ネット決済に特化したイーバンク銀行(現・楽天銀行)を設立するために日本の規制と向き合っていた私は、まず“ベルリンの壁の崩壊”や“ソ連崩壊”が起こる数十年も前に、「自由主義」(新自由主義、経済的自由主義とも言いますが)という考え方を持つ人がいたことに驚かされました。

著者のフリードマンは、「自由主義」を提唱した米国の経済学者です。

その考えのもとになっているのは、政府は細かい規制で介入するのではなく、できるだけ市場原理に任せるべきであり、それが世の中のために一番いいのだということ。だからこそ政府は、能力がある人や努力している人がその力を発揮するための自由な市場を創る役割を担い、その一方で自由人は、国あるいは国家権力を自分たちのためにどう使いこなすかを考え、権力を持つものが暴走しないようにチェックすべきだと指摘しています。

この考えに影響を受けたのが、米国のレーガン大統領や英国のサッチャー首相でした。日本でも小泉政権下で派遣労働の自由化や郵政民営化など、多くの改革が推し進められました。

しかし、企業を取り巻く環境には、日本と世界ではまだ大きな差があります。

例えば、日本にネット決済特化型の銀行ができる前に、すでに米国ではペイパルが開業していました。銀行免許がなくても送金を行うことができるネットサービスです。遅れること1年以上、我々がようやく銀行免許を取得したときには、さらに大きく水をあけられていたのです。しかも、開業以降も我々にはさまざまな規制が課せられました。世界で拡大しているUberやAirbnbが国内で広がらないのは、同様の理由です。

規制せずとも、消費者は自身に必要なもの、そうでないものを的確に選びます。その結果、世に必要とされる企業は大きく成長しますし、経営者もまた消費者や取引先、従業員に監視されることで、自らを律し、経営と向き合っていけるのだと思います。

とはいえ、経営者にとって自由は、楽しいことばかりではありません。自分で考え、決断し、その結果に責任を持たなければならないからです。しかし、大きな可能性を感じさせてくれるのも「自由主義」経済だからこそです。

本書は、経済学のバイブルとしてだけでなく、ベンチャー起業家の心得のひとつとなってくれるでしょう。若い経営者の方々に読んでほしい一冊です。


わかやま・たけひこ◎東京大学卒業後、日本長期信用銀行(現・新生銀行)入行。スタンフォード大学でMBAを取得し、日本電子決済企画(現・楽天銀行)立ち上げに携わる。アセット・インベスターズ(現・マーチャント・バンカーズ)社長などを務め、2012年より現職。

構成=内田まさみ

この記事は 「Forbes JAPAN Forbes JAPAN 10月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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