一方で、8月には全米で住宅ローンの返済の延滞率が8%に上昇してきた。ヘッジファンドが住宅ローンで苦しむ家を安く買い上げ、元の住人にはそのままレントとして払ってもらうスキームに切り替えることを盛んに進めている。物件の権利を得て、いずれ高値で売り抜けるためで、ハゲタカが並んで狙いを澄ましているような感じだ。
商業不動産であれば、例えば自社ビルを売ってそのまま店子として残るスキームがあるが、その住宅不動産のバージョンである。
そのために、住宅ローンが払えなくなり、差し押さえ物件になって市場に出る数は水面下よりは少ないが、それでもニューヨーク市で住宅在庫の12%、約4300件の差し押さえ、競売物件が出ている。ニューヨーク州となるとこれが約1万3000件にまで広がっていて、商業不動産まで含めると年末から年明けにかけて、さらに増加すると見られている。
2020年の2月と3月で、一旦、競売物件数、銀行などの差し押さえ物件数、差し押さえ前の物件数は一度ピークを迎え、夏場は安定して推移してきたが、9月になって差し押さえ前の物件は、前月より80%増加、前年比でも12.5%増加してきている。
郊外の税金が安いところということで移住したはずのペンシルバニア州のポコノリゾートエリアでは、9月からの固定資産税が一気に3倍近くになった例もあり、これでは何のための移住だったかと、地方の財政悪化が反映された揺り戻し現象が早くも起こっている。
アメリカは売上税や固定資産税は各自治体単位で決められるので、隣町のほうが売上税、ガソリン税、固定資産税が安いと言うことは頻繁に起こる。
固定資産税が安いと郊外に移ったのはいいが、税金が上がればまた街がいいということになって、コロナ後にまた住民はニューヨーク市に戻ってくるのだろうか。
ニューヨーク州の北部にあるキャッツキルエリアは、避暑地やスキーリゾート地だ。ニューヨーク市から多くの人が移住し、9月になっても戻らず定着している。学校やインフラ整備のためにも、いずれ移住してきた人々からの税収だけでなく地方の固定資産税も上げざるを得なくなってくるだろう。
ストリーミング配信が伸びるなかで、全米の映画館チェーンAMCは、映画館が持っている不動産という資産を再定義し、映画館を定員20名までとし、100ドルで貸切るサービスを始めた。映画館をホームシアター化するという逆転の発想だ。
全体を眺めてしまえば真っ暗闇に見えるコロナ禍であるが、個別に見ると全滅というわけではなく、どの業界にも一筋の光明はある。必ず道はあると信じ、状況を観察し、より分け、かき分け、時に逆に考え、時に数値で考えて、個別化して思考を巡らす。そして何とかこれならいけるのではないかと新しい可能性を見出し、発見をし、人々は生き延びてきた。
かつてIBMの社内の机上には、1911年につくられたスローガン「THINK」を書いた置物があった。いまの「レノボ」、かつての「ThinkPad」というラップトップの名前も、このスローガンから来ていた。
亡くなった友人からもらった「THINK」の木製置物が、いまも私の机上の目に付くところに置かれているが、座して死を待つよりは、脱皮できないヘビは死ぬと考え、何とか新しい方向性を見出し、業態を変えるなど、皆でTHINKして、この危機を乗り越えたい。
連載:ポスト・コロナのニューヨークから
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