「脱皮できないヘビは死ぬ」 ニューヨークの飲食店と不動産市場は今

Cindy Ord / スタッフ/Getty Images


スクワッターも登場した不動産事情


ナショナル不動産協会によれば、全米で8月に契約が決まった住宅数は、7月に比べて8・8%上昇。この数字は2001年の9月以来最高で、昨年同期と比較しても24.2%の増でもあった。

日本と比べればまだ高い住宅ローンの金利だが、アメリカとしてはいままでになく30年3%台に下がった低金利ローンが、この傾向に拍車をかけている。郊外の不動産業者が「例年になく倍くらい忙しい。特に3月から5月まで止まっていたぶん、夏にしわ寄せが来ていて、いい物件の在庫が少なくなって追い付かない」と言っていたことと、この傾向は符合する。

アメリカのトップの住宅サイト「Zillow」によると、この秋の住宅価格は4.8%上昇し、来年にかけては緩やかに下がると予測している。リーマンショックの時は都市から同心円を描き、それが裾にいけばいくほど、郊外の住宅価格は暴落したが、今回は都市から郊外への潮流が強く流れており、郊外の価格がむしろ10%程度上昇している。

マンハッタンでも以前に比べてよく引っ越しのトラックが目に付く。郊外に住む友人は「郊外はもうコロナバブルだ」と言っている。

空き家になったところへ不法に侵入して占拠する「Squatter(スクワッター)=居座る人の意」は、スペインでも増えているという報道もあったが、ニューヨーク市でも以前の経済が悪かった1970年代と同じくらいに増えてきている。かつてスクワッターを追い出そうとすると彼らに放火されたと、その当時のビルのオーナーが何度も言っていたが、現在は、法律で、簡単に追い出せないようになっている。

コロナ禍が始まって以来、家賃の支払いを猶予する行政命令が出たが、ニューヨーク州知事は、10月から家賃の滞納による退去命令を再開させるとした。その直後に、今度はトランプ大統領が、年末まで退去命令を猶予するという大統領令を出し、貸主側にはさらにダメージが溜まる事態になっている。

冬場になって再度家賃の支払い猶予を延長しなければ、ホームレスが増えることになるので、これは延長せざると得ないと言われている。

ニューヨーク市の商業物件ビルの価格も10%以上下落してきている。住宅不動産市場では現在3万6000件の売り物件が出ている。マンハッタンに限っても1万1000件で、この地区のマーケットは、改装後の質の良いもので値打ち感が出ているものは、それでもすぐに買い手が付く。

2001年のアメリカ同時多発テロの直後、埃と煙で汚れたニューヨークのダウンタウンの物件は値下がりしたが、やはり買い手はすぐに戻って来た。リーマンショックの後も同じだった。

今回のコロナ禍では、不動産の物件案内も、現物内覧が前提での購入であったが、こんな時期ということもありバーチャルツアーで済ませ、実際の物件を見ないまま、購入することさえ増えてきている。特にミレニアム世代が、デジタル的な感性のまま、近隣の雰囲気や、ノイズ、臭いなど現場で確認することもなく購入してしまうことが多いようだ。
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文=高橋愛一郎

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