水をコントロールし、人間を解放する。WOTA前田瑶介が挑む今世紀最大の課題#30UNDER30

WOTA代表取締役CEOの前田瑶介


「都市も、複雑系を持ったひとつの生き物です。都市の参加者は個別に動くけれど、全体性があって街ができる。それをひもときたくて建築学科に進みました」

研究を進めるうちに痛感したのは、都市のインフラは計画主義で設計されており、複雑系から程遠いという現実だった。

「人やモノが自由に動いてフィジカルにコミュニケーションすれば、セレンディピティが生まれる。それが都市の魅力です。しかし、都市のインフラは誰か一人が神の視点で描いた設計図どおりにつくられていて、自由度がなかった。都市の在りようって、本当にそれでいいのかなと」

なかでも気になったのは水道だ。遠くから水を運ぶために設計された現在の水インフラは、100年かけて投資回収するモデルで硬直的だ。人々は固定的なインフラに合わせて生活も縛られる。水の供給が自律分散型になれば、人々の自由度は増して、都市は生物としての活力を取り戻すのではないか。そう考えた前田がWOTAにジョインしたのは自然なことだった。

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水道いらずの手洗いスタンド「WOSH」。ほんの少しの水と電気があれば世界中どこでも設置、利用できる。月額20000円(税別)のレンタル制。米国の大手チェーン店など海外から引き合いも

20年7月、WOTAは新製品「WOSH(ウォッシュ)」を発表した。WOTA BOXから手洗いの機能を切り出して特化した製品で、水道との接続は不要だ。躯体にはドラム缶を使い、場所を問わずに設置できる。手を清潔にするだけでなく、雑菌が多いとされるスマホの表面を深紫外線の照射できれいにすることも可能だ。

実はWOSHのプロトタイプは、前田が趣味で作ったものだった。前田は中古車を購入して、内装を自分好みの居住空間へと改造し、そこに積み込む手洗い設備を自作した。商品化の直接のきっかけは、新型コロナウイルスの感染拡大だ。

「もともと災害現場でも、『手洗い専用機があると便利』という声は聞いていて、商品化の検討はしていました。そこにCOVID-19が来た。カフェ経営者から『トイレに手洗いのための列ができている』と聞き、これはすぐにやらないといけないなと」

ただ、単にニーズがあるから商品化したわけではない。前田が意識したのは、手洗い専用機がもつ象徴的な意味だ。
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文=村上 啓 写真=平岩 享

この記事は 「Forbes JAPAN No.076 2020年12月号(2020/10/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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