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14時すぎ。7人のメンバーが仕込みの手を動かしながら、まかない料理をつくる。この日はチーズバーガー。パン生地の表面に卵黄を塗って焼くところから始まり、自分たちの食事にも手は抜かない。オープンまでにやることは山ほどあって忙しいが、まるで「部室」のように和やかな雰囲気が漂う。

「どこの業種も同じですけど、いちばん下の子が笑顔でいられる職場がいいだろうと僕は思って。どうしても飲食店の現場ってピリピリしてくるので、それを意識的になくそうとしています。店の雰囲気は、お客さんにも伝わりますから」

週休2日、夜営業のみ。3カ月に1回は1週間ほど休みが取れる。最年少のスタッフは26歳、手取りで27万円の月給だという。

「1年間、洗い物を担当するより、キッチンで失敗してでも成長するほうがいい。だから、洗い物は基本的に僕が引き受けています」と宮下。「10年後、20年後、下の子たちに支えてもらわないと料理業界が終わっちゃう。上にはこびないけど、下にはこびていかないと(笑)」

共同オーナーの二人はいまの宮下をどう見ているのか。堺部は「それ以外の部分は信じられないところも多いけど」と茶化したあと、「仕事に関しては信じている」と真顔になった。

「まずは経験。いままで本当にいいものに触れているので、食べ物でもワインでももっているデータの量が違う。『そんな情報どこで探してきたんだろう』といった新しい物事を知っています。この業界にずっといるのもあるし、顔も広いですしね。そして感度も高いと思う。ジェイカブもそうですけど、彼らの味に対するジャッジをすごく信じています」


ペアリングドリンクをつくる堺部雄介。「食中酒に徹するので、味わいを削るところはいっぱいある。パズルのピースみたいに組み合わせます」

キアも「拓己君がいるからこの店がある」と言う。

「彼はサイコパスですけども(笑)、普通の29歳の子より頭の回転がすごく速い。お金関係でも、彼がいたから担保なしで借りられたし、いろいろ準備できたんじゃないか。ありがたいことに、僕は料理だけに集中できます」


野菜をローストするジェイカブ・キア。「窯では野菜本来の甘味やうま味を出せる。キルン(暖炉)では肉や魚などを焼いて使い分けます」

妥協しない店づくりをした結果、開業費用は約6000万円。自己資金は3人合わせて500万円ほどだった。

「あとはかき集めました。絶対にけんかするとわかっていたので、投資家は入れなかったです」と宮下。分厚い事業計画書を信用金庫に持参するも、最初はまるで話を聞いてもらえない。

「担当者がノイローゼになるほど毎日電話し続け、質問を聞いて、その答えを資料で提出するやり取りを繰り返していると、だんだん向こうからの質問がなくなってきました。コンセプトはちゃんとあるので、貸せない理由がなくなるんですね。結構、しっかり貸してくれました」


3人を象徴する中庭の木。トイレはその奥にあり、あえていったん外へ出た場所に配置した。安藤忠雄のデビュー作「住吉の長屋」を思わせる設計だが、屋根はついている

文=神吉弘邦 写真=平岩 享

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