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2020.11.02

「クレバーな妄想狂」宮下拓己が率いるLURRA°の全貌 #30UNDER30

LURRA° 共同オーナーの宮下拓己

今年の「30 UNDER 30 JAPAN」受賞者のひとり、宮下拓己は、世界で経験を積んだシェフ、バーテンダーと京都「LURRA°」の共同オーナーを務める。

彼の役割は、「ゼネラルマネジャー」。カウンターのみの小規模店で、マネジャーは何をするのだろう?



2019年後半から「あの京都の店は体験したか」と話題にのぼったのが『LURRA°(ルーラ)』だ。『ミシュランガイド京都・大阪+岡山2021』で一ツ星を獲得した、オープンキッチンに面するカウンター10席の小さな店。

既存のジャンルにとらわれない料理は、計10品のコースのみ。ミクソロジーの技法も採り入れ、完璧に計算された7杯のペアリングドリンクが皿ごとに供される。店にガス台はなくまきの火で調理するため、1日2回転の時間通りに入店する必要がある。食材の変更も基本的に応じない。

こんなコンセプトを立てた宮下拓己との出会いを、共同オーナーでシェフのジェイカブ・キアは「最初はストーカーかと思った」と語る。デンマークの『noma(ノーマ)』を経て世界各地で活動したキアの料理は、彼のインスタグラムからも魅力が伝わる。

食材への探求心、変化し続ける発想、盛り付けの繊細さ……。才能にほれ込んだ宮下は「将来こんな店をつくりたい!」という熱い思いを長文のダイレクトメッセージで送る。キアは12歳まで日本で育ち、日本語に不自由しないものの、唐突さに面食らいスルー。15年のことだった。

2年後、キアが料理長として働いていたニュージーランドの『Clooney(クルーニー)』に宮下がソムリエとして就職する。彼を追ってきたのだ。同店でキアの同僚だったバーテンダー、堺部雄介も宮下の行動力と人との距離の詰め方に最初は当惑する。

宮下と同い年の堺部は10代から海外のバーで経験を積み、バーマネジャーを任されていた。3人が一緒に働いた半年の間に、同国内で最も権威のあるガイド本で最高評価を獲得。

営業中は互いに顔を合わせない大きな店舗だったが、宮下はチームワークに確かな手応えを感じた。「この3人でなら……」。妄想が現実化へ向けて動き出していた。


2019年7月、京都・東山にオープン。営業は17:30と20:30からの一斉スタートのみ。各3時間の体験を提供する。コース+ドリンク(アルコールorノンアルコール)ペアリングで25000円(税・サ別)

創造の苦しみをも言葉で伝えたい


店を出すのは日本。「でも東京じゃない」という意見が3人で一致する。自然に近く、適度に都会。多くの店に埋もれず自分たちのカルチャーを発信できる場所。そんな京都を選んだのは人の縁だ。

キアがロサンゼルスにいた7年ほど前に知り合ったシェフの今井義浩。彼が15年に京都でオープンした『monk(モンク)』のサポートにニュージーランドから帰ったキアが誘われた。そこでピザ窯を使った調理と、京都の地場で採れる野菜の素晴らしさに出合う。

「使うのは窯と暖炉。プリミティブ(原始的)なまき料理をモダンに見せる。いろいろなテクニックをブレンドして新しい表現がしたい」。宮下が執念で追ったキアのイマジネーションが固まった。
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文=神吉弘邦 写真=平岩 享

この記事は 「Forbes JAPAN No.076 2020年12月号(2020/10/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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