松本と佐俣にとって、フィランソロピーは課題を効率的に解決するための手段であり、社会への投資である。だからこそ、寄付先を選定する目は厳しい。
例えば、松本は、「社会課題の表面を“モグラ叩き”するような取り組みは支援しない」という明確な基準を持つ。
「ラクスルは、『仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる』というビジョンを掲げていますが、フィランソロピーも同じです。課題解決の仕組み作りに取り組んでいるか、法律や制度を変える力があるか。僕の場合はインパクトが欲しい」(松本)
一方、16年に「毎年1000万円以上を寄付する」と公言し、19年には寄付の総額が3000万円に達したという佐俣。これまでは「子どもが幸せになる権利」と「天才児教育」の2軸で寄付をしてきたが、最近になって支援の軸が「すぐには共感できない課題」へと変わったと言う。
「薬物中毒者とか、少年院に入った子どもの社会復帰とか、共感を生みにくい社会課題は多い。でも、背景をたどっていくと、社会の仕組みに問題の本質があったりする。そうすると、解決をしたいという気持ちが湧いてくる。共感にたどり着けるかどうか、自分を試している感じです」(佐俣)
問題の本質を知る。そのために、佐俣は少年院などに足を運び、当事者や支援者の声に耳を傾ける。
「フィランソロピーを通じて社会課題に一定の関心を持てるし、現場の状況を聞けるし、時には参画できるという対価も得ている。だから僕には、褒められるようなことをしている感覚はないです」(佐俣)
身分の高い者には社会的責任と義務がある──。ノブレス・オブリージュの精神が息づく欧米では、その道徳観からフィランソロピーを公言する著名人も少なくない。一方、日本には「言わないことが美徳である」という風潮も根強い。だからこそ、松本と佐俣は「僕らの世代でフィランソロピーのトレンドやムーブメントを作ることが大切」と口を揃える。
「寄付は富を再配分する手法だと思っています。政府に任せるより民間で再配分したほうが、より効率的な社会を作り出すことができる。だからビル・ゲイツのように、自分の資産で富の再配分をやっていきたい。そして、そのことを発信して寄付のトレンドを作っていくべきだと思う」(松本)
社会課題に向き合い、お金や活動を通じて貢献できている人が格好いい。そして何より、世の中の課題解決に役立っていると実感できることは「人として高次元の幸せ」なのだと佐俣は言う。
「社会課題と自分自身が連結しているっていう感覚があると、モチベーション高く動き続けられる。だから、フィランソロピーは自分のためでもあるのです」(佐俣)
まつもと・やすかね◎ラクスル代表取締役社長CEO。1984年生まれ。慶應義塾大学を卒業後、A.T.カーニーを経て2009年にラクスル設立。「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」をビジョンに掲げ、印刷業界などの変革に挑む。
さまた・あんり◎ANRI代表パートナー。1984年生まれ。慶應義塾大学を卒業後、イーストベンチャーズを経て2012年にANRIを設立。独立系ベンチャーキャピタルとして300億円のファンドを運営し、投資先は125社にのぼる。