積み木のようなブロックを使用する検査項目もあったが、それは断念せざるをえなかった。
認められない理由は、「事前にブロックを送ってもらっても、そのまま受刑者の房内に入れることは許可できない。刑務所には保管する規定もない。よって、送り返すことになる」とのことだった。しゃくし定規な対応には驚くばかりだったが、ならば当日持参して使用することは可能かというと、それも難しそうだった。
医師が持参したブロックをアクリル板の向こうの部屋にいる西山さんに渡す場合「刑務官がブロックの移動を手伝うことは難しい」というのだ。また「面会室には、A4サイズの紙に記入する程度のカウンターはあるが、机はないため床にブロックを並べるしかなく、そうすると、面会人側から見えない」とのことだった。ブロックの受け渡しも、小さな机をたった一つ用意することも「一切できない」ということだった。
まったく、開いた口がふさがらないとはこのことだった。とはいえ、完全な形ではなくても、獄中鑑定ができる、というだけで大きな前進であり、細かなところで争っても時間がもったいない。できる限りは譲歩して、後は正式な日程が決まるのを待つしかなかった。
刑務所から与えられた「3時間」
日程が確定した、との連絡が来たのは3月22日だった。
小出君と井戸弁護士、刑務所の三者の都合が合う4月20日に確定し、面会時間は、昼食をはさんで3時間(10時半~12時、13時~14時半)。一般の面会時間が30分に限定されていることを考慮すると、相当な配慮がうかがえる。知能検査の「WAIS–III」は、ブロックが使えないため、一部を省略する簡易法になった。
刑務所側の対応に、小出君もおおむね納得した様子だった。
「医者が所見を出す上では、何より患者と直接会う必要があるが、その上で、最低限必要な検査の時間が取れたことは大きい。3時間なら、まあ十分だと言える」
小出君は、井戸弁護士を通じて検査用紙を和歌山刑務所に送るとともに、獄中の西山さんへ一筆したためた。
「前略 西山美香様 愛知県一宮市で心療内科医をしている小出です。井戸先生から聞かれていると思います。4月20日、和歌山にお邪魔し、臨床心理士の○○さんと一緒に、お話をうかがいます。いくつか「心理検査」をしますが、あなたの無実を示すための検査です。でも緊張せず、いつも通りの気持ちでのぞんでもらえればよいです。井戸先生から送られた検査用紙は、当日まで開けずにあなたが保管していて下さい。面会室でやり方を説明するので心配はいりません。それでは木曜日、お会いできるのを楽しみにしています。体に気をつけてお過ごし下さい。応援しています。草々 3月末日 小出将則拝」
西山さんは、この手紙を受け取り「優しい文面で、お会いできるのを心待ちにしていました」と振り返る。
実現するかどうか、半信半疑だった獄中鑑定は思いのほか順調に手続きが進んだ。アクリル板越しという条件下ではあったが、ほぼ満額に近い回答だった。
そんな折、裁判で新たな動きがあった。
私たち取材班と弁護団が獄中鑑定に向けて和歌山刑務所と折衝している最中の3月14日、井戸弁護士に裁判所から呼び出しがあったのだ。第2次再審弁護団は1審で棄却された後、1年5カ月もの間なしのつぶて状態に置かれていたが、まるで私たちの動きとタイミングを合わせるかのように、裁判が動き始めた。
連載:#供述弱者を知る
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