許可された「獄中鑑定」 ついに医師、弁護士、記者の思いが伝わった|#供述弱者を知る

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より検査の正確性を期すため、刑務所での検査に当たっては、以下の条件が必要です。

1. 通常のアクリル板越しの面談ではない、個室での検査場所の確保
2. 臨床心理士と精神科医の立ち会いの許可
3. 刑務官の退席(許されない場合は西山受刑者の視野に入らないような措置)
4. 3時間程度の時間の確保(間に昼食1時間程度を挟む)

以下は検査の種類です。

〈知能検査〉WAIS-Ⅲ〈発達検査〉PFテスト、SCT、ASRS、AQJ〈性格検査〉TEG

以上
 


事務所での面会から9日後の2017年3月14日、井戸弁護士から私と小出君に「刑務所側が許可することになった」とのメールが入った。

刑務所側の条件は、以下のような内容だった。

【1】鑑定のため医師、臨床心理士、弁護人の立ち会いを認める
【2】面会時間については配慮する
【3】場所は通常の面会室で刑務官の立ち合いのもと、アクリル板越しでの実施とする

メールを見た瞬間、思わず独り言で「本当ですか!」と声が出た。獄中鑑定が実現できるかどうか、半信半疑だっただけに、喜び以上に驚きが大きかった。

うまくいったのは「再審の証拠として必要」とする弁護団の要請という形をとったことだ。だが、前回書いたように、それだけでは拒否される可能性もあったことが後に判明する。西山さんが精神的に不安定な状況が続いていたことで、刑務所側にとっても鑑定は受刑者の安全管理上、プラスだったことが大きかった。しゃくし定規な刑務所にしては、即決に近いスピーディな返答が、その前向きな対応を物語っていた。

一部の精神鑑定は、断念せざるを得なかった


許可は出たが、精神鑑定の方法をめぐり、手順の詳細についての詰めの協議は続いた。刑務所というのは、規則にがんじがらめになっているところで、精神鑑定を認めたからといって「ご自由にどうぞ」というわけにはいかない。

検査には規定の用紙があり、被験者の西山さんに書き込んでもらう必要がある。

しかし、仮に小出君が当日その用紙を持参した場合、たった1枚の用紙でもアクリル板越しに手渡しすることは禁じられる。用紙1枚といえども、小出君から西山さんに渡すためには「差し入れ」の手続き、戻してもらうためには「宅下げ」(差し入れてもらった物品を自宅に戻すという意味)の手続きが必要になる。

刑務所側と折衝した井戸弁護士によると、いずれにも手続きのために30分から1時間近い所要時間を要する、という。それでは検査にならない。そのため、検査用紙は事前に井戸弁護士から刑務所に郵送し、検査後、その場では渡さず、後日、西山さんから郵送してもらう、という何とも面倒な方法をとることになった。
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文=秦融

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