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シネマ未来鏡


それぞれ別の入り口から、同じ未解決事件に関わることになった阿久津と曽根だが、やがて2人が出会うとき、1人の人物をめぐってとんでもない事実が浮かび上がってくるのだった。

映画でも、原作と同様に、この2人の行動を丁寧にトレースしながら、未解決事件の真相に迫っていくという展開になっている。心なしか映画のほうが2人の出会いは早い時点に設定されているが、それがこの錯綜した事件のあらましをよりわかりやすくしている。

映画オリジナルの2人の場面もいくつか設定されており、それがかなり観客を作品の世界に引き込む手助けともなっている。この2人を演じる小栗旬と星野源のコントラストも実に素晴らしい。ややアウトロー的な阿久津と実直な曽根の組み合わせを、小栗と星野が見事に演じている。

原作者も絶賛の脚本家の手腕


また、原作の緻密な「謎解き」を鮮やかに脚本へと移し替えた野木亜紀子の手腕も大きい。事件をめぐる入り組んだ人間関係をわかりやすく整理し、そのうえで印象深い新たなシーンも付け加えている。

「原作者の意図を掬いつつ、映像作品として独立させ、原作を読んでいない人にも届けられる脚本にしなければいけない。今回は、要素があまりにも多いので、限られた尺の中でどう描くのかぎりぎりまで悩みました。情報を並べるだけでは物語に入り込めないですしね」

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(c)2020 映画「罪の声」製作委員会

こう語る野木だが、脚本家としての映画デビュー作は、2013年に公開された「図書館戦争」(佐藤信介監督)。この作品も小説を基にした作品だったが、著者の有川浩からは、原作を正しく読み解き、そのエピソードの取捨選択の的確さが高く評価されている。今回の「罪の声」でも、原作者の塩田武士からは、硬軟自在に物語を紡ぎ出す彼女の脚本が、絶賛されているという。

野木は、最近では「逃げるは恥だが役に立つ」(2016年)の脚本家としてもクローズアップされていたが、その「逃げ恥」でもタッグを組んだのが、「罪の声」の監督でもある土井裕泰だ。土井は野木のことを次のように語る。

「原作のスピリットを掴み、映像作品という文脈で再構築するのがとても上手い。手ごわい原作で苦労も多かったのですが、野木さんが一緒に闘ってくれたことが僕たちにとってはとても大きな力になりました」

土井はTBSの社員ディレクターであるにもかかわらず、映画でも「涙そうそう」(2006年)や「ハナミズキ」(2010年)などの作品を監督。今回の「罪の声」でも、情感あふれる演出で、2時間22分の上映時間の中で、原作である傑作ミステリーの魅力を丹念に映像化している。

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(c)2020 映画「罪の声」製作委員会

小説の中でも、映画の中でも、題材とされた未解決事件については、「ギンガ・萬堂事件」あるいは「ギン萬事件」と表現されているが、これは標的となったいくつかの食品会社に配慮してのことだろう。実は、映画会社からも「事件については、被害企業に配慮し、具体的な表記は避けていただきますようお願い致します」という依頼も来ていた。

すでに平成も終わり、令和の時代となり、時効で迷宮入りした昭和末期のこの事件の関係者たちは、果たして映画「罪の声」をどんな気持ちで見るのであろうか。そのことから、もうひとつまた新しい物語が生まれるのではないかと勝手に妄想している。

連載:シネマ未来鏡
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文=稲垣伸寿

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