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長沼伸一郎

物理学者が書いた異例の「経済」本として話題になり、ビジネス書大賞2020の特別賞を受賞した『現代経済学の直観的方法』(講談社)。著者の長沼伸一郎は1987年に難解な物理学の解説本『物理数学の直観的方法』を出版し、理系の世界で名を知られるように。その後、確率・統計、マクロ経済学についての「直観的方法」本を出版し、その対象分野を広げてきた。

そんな長沼氏の著書のなかでも、今回の『現代経済学の直観的方法』は経済学の根本そのものに踏み込んだ、思い切った内容だ。しかし、長沼氏によれば、このような複数の分野を統合的に理解する営みが、「人類の歴史の再建」のために非常に重要になってきており、それこそ長年長沼氏が追求してきた知のあり方であるという。

なぜ異分野の理解が「人類の歴史の再建」に必要なのか。長沼氏の壮大な構想を聞いた。


──長年、さまざまな分野の『直観的方法』の本を執筆されています。なぜ『直観的』に理解することが重要なのでしょうか。

私が物理を学んでいたことが決定的だったと思います。物理の基本は、物事を徹底的に細分化し、分析することです。それをつなげたものが全体像になるというのが常識で、「部分の総和が全体と一致する」のが宇宙の原則だとされてきたのです。

ところが、天体力学の「三体問題(3つの天体が互いに万有引力を及ぼし合いながら行う運動を明らかにする天体力学の主要な問題。2つの天体の場合を二体問題といい、ニュートンが解いた。三体問題は特殊な制限条件下を除いて一般的には解けない。)」という難題があります。この問題は、ばらばらに解くことができず、なぜか部分の総和と全体が一致しない。物理学者の常識からすると不思議です。その理由は直観的にはよくわからなかったのですが、それをずっと考えているうちに、根本原因を直観的に理解する方法があることに気がつきました。

さらに、この問題を突き詰めて考えていくと、哲学として一般化できるのです。現代の学問では、分野を細かく細分化して、1つ1つを厳密に高度化し、それを最後に集めて素晴らしい学問をつくる、というかたちになっています。しかし、実はそれぞれの分野で結論を出したものをつなげても「全体の答えにはならない」のです。

例えば3つの分野が絡み合ったものを理解するのに、1つの分野だけをそれぞれ修めた3人が集まっても意味がない。3つの分野を1個の頭脳におさめている人間がいないと答えはもとまらないのです。

そうだとすると、1つ1つの厳密性は少し落としてもいいから、有限の時間のなかで、その3つの分野を大づかみに吸収できる「教科書」がないといけないと考えました。1つの専門だけを徹底的にやって残りの2つは素人レベルで我慢するのではなく、3つともメインとして頭に入れることが絶対に必要になる。それが20代のころにたどり着いた結論です。そして、それを可能にするのが「直観的方法」でした。

──『経済学の直観的方法』の構想は、20代のときにすでにあったと聞きました。

原稿自体はかなり前にまとまっていたのですが、出版までに時間がかかりました。私は理系の分野では名を知られていましたが、文系では無名ですし、経済学部卒でもないので急に経済本を出すのは難しかったのです。

そこで私が考えたのは、経済学で一番難しい数学を使っているのはどれか、ということでした。それを探すと、確率論による投資理論やマクロ経済学の経済数学は、東大の経済学部を出て日銀に入ったエリート中のエリートも理解に苦しむような難物です。そこをわかるようにする本を出せば、勝算があると思いました。この『経済数学の直観的方法』シリーズは、金融のトップのエリートの間で高い評価を得られました。そうして、『現代経済学の直観方法』が出版できる素地ができたのです。

文=成相通子 イラストレーション=山崎正夫

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