建物は、凹凸のある黒御影石を用いたもので、エントランスに続く木製扉はウイスキーのオーク樽材を思わせる。バーの入り口というのは、日常と非日常を切り分けるように重厚感のあるものが多いが、まさにここの扉もそうだ。
木製扉を抜けて、ホテル内に入ると、まず長さ13mの貴重なチークのバーカウンターが出迎えてくれる。このバーカウンターはレセプションも兼ねていて、バーテンダーがチェックインとチェックアウトも行う。
レセプションも兼ねたバーカウンター
バーの中にホテルがある
バーカウンターの向うには大きな窓があり、そこから大文字焼きでも知られる箱根浅間山(せんげんやま)の山々を見渡すことができる。ウェルカムドリンクのシャンパーニュを飲みながら、ここでまずはひと息つけるという趣向だ。
通常のホテルとは異なり、ここではバーテンダーがレセプションだけではなくベルボーイやフロントなども兼ねる。そこには、バーと一体化させたこのホテルの独特の「世界観」がある。
こうした世界観から、バーでの飲料代は宿泊料金に含まれている(一部のプレミアムな酒は除く)。まさに筆者のような酒好きにはたまらない宿といえる。いつもとは違う酒を、バーテンダーと相談しながら味わい、新たな発見をすることも、ここならたやすくできそうだ。
「時間がゆっくりと流れ、誰にも邪魔されずに、自分自身や大切な人と言葉や心を通い合わせることができる場をつくりたいと考えました」
こう語るのは運営会社で、ホテルの設計を担当したシマダアセットパートナーズの一級建築士の田ケ原由佳だ。
「このコンセプトから、ホテルの中にあるバーではなく、バーの中にあるホテルという設えが生まれました。そこでは、バーテンダーが厳選したウイスキーやお客様の好みに合わせてつくるカクテルを楽しみながら、バーカウンターの後ろに広がる豊かな箱根の自然を眺めて語らい、心ゆくまで自由に過ごすことができる世界が広がります」