yutoriは、その創設からいままで、トレンドを追いかけるファッション業界の王道の商法に抗うように、独自の路線を突き進んできた。33万フォロワーを超える日本最大級の古着情報インスタグラムアカウント『古着女子』を運営、『9090』『spoon store』をはじめ複数のアパレルD2Cブランドをプロデュース、世界初のバーチャルモデルのみが所属するモデルエージェント『VIM』を設立している。
片石貴展、yutori代表。今年、「30 UNDER 30 JAPAN」受賞者のひとりとして選出された彼は、ポエティックな世界観を築きながら、ロジカルに試行錯誤を重ね、国内を代表するファッションカンパニーから注目を受ける実績を0から築き上げた。数年以内の上場を見据えるが、本当に目指すのは、「臆病な秀才の最初のきっかけをつくること」。
yutoriの服が若者から熱烈に支持される秘密、そして同調圧力が強い時代に「好き」を表明し続ける片石のピュアな情熱に迫った。
大学2年の秋。自分の中のスイッチが入った
臆病な秀才の最初のきっかけを、創り続ける──。yutori創業以来、片石が声高に掲げてきた思想だ。
「自信が持ちにくい時代です。多様性を尊重しようと言われますけど、実際は個人の秀でていない部分が表出すれば、容赦なく叩かれてしまう」
実際、片石は才能のある者が諦める瞬間を目の当たりにした。同時にそれは、yutori創業につながる出来事でもあった。
すべてのはじまりは、大学2年生の秋だった。明大前の飲食店でアカペラサークルに所属する片石は後輩といた。赤髪の後輩は歌が上手いのは無論、「歌を通して何かを伝えたい」ことを感じさせる稀有な才能があった。
けれども突飛すぎる性格ゆえか、サークルのメンバーとうまくいかず、思うようにバンド活動をできていなかった。彼は、「もう、観る側でいい」と口に出した。
その瞬間、片石の中でスイッチが入った。後輩とバンドを組もう、そう強く思った。間も無く6人組アカペラグループ「The Snatch!」を結成。動画共有コミュニティサイト「MixChannel」を戦略的に活用し、インディーズながらファンをみるみる増やした。卒業ライブでは600人ものファンが彼らの最後を見届ける、有終の美を飾った。
音楽の道を諦めかけた赤髪の後輩は、現在メジャーデビューを果たしている。