忖度している場合じゃない。SIRUPが提示する社会との向き合い方

アーティストのSIRUP(シラップ)

2020年も残すところあと2カ月と少し。今年は新型コロナウイルスウイルスのパンデミックを筆頭に、オーストラリアの大規模森林火災、世界的な人種差別抗議デモなど、思い出すだけでも辟易とする出来事が続いた。ステイホームが推奨され家に籠もりきりだったからこそ、普段であれば気に留めないようなことにも敏感になり、精神的なダメージを受けた人も少なくないはずだ。

一方で、SNS上では未来の明るい兆しが見えるようになった。「このままではいけない」と多くの人々が声を上げるようになったのだ。

アーティストのSIRUP(シラップ)もそのひとり。2017年11月の『Synapse』を皮切りに楽曲をリリースし、18年の『Do Well』はホンダのCMソングにも使用された。今年3月の「SPACE SHOWER MUSIC AWARDS 2020」では、ベスト・ブレイクスルー・アーティストに選ばれるなど、ますます注目が高まる存在だ。

そうして日々リスナーが増えているなかでも、SIRUPはSNS上で社会課題に言及することをためらわない。ツイッターやインスタグラムでは、Black Lives Matter運動に対する意思表明をし、ハッシュタグ #検察庁法案改正に反対します とツイート。フォロワーに向けてわかりやすい解説記事や自身の考えを共有し、寄付やチャリティにも積極的に貢献している。

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SNS上での意思表明は怖さが伴う。ましてやこれまでそんな素振りを見せなかった憧れのアーティストが、急に、いわゆる“政治的発言”をしようものなら各方面からあらゆる反応が飛んでくる。

SIRUPはなぜそれができたのか。率直に理由を聞くと、「これまでは……」とつぶやくように、胸の内を語りだす。

「これまでは、いろいろなことへの影響を考えて、おかしいと思っても表明せず、どこか忖度していたところがありました。けど、今回のパンデミックで、全人類平等に“死ぬ”可能性が出てきたことを実感したとき、何かに忖度している場合じゃないと思ったんです。僕たちの生活、そして大切な音楽を守るためには声を上げなきゃいけない、と」

ファンのなかには「(そんな発言をするなんて)がっかりしました」「アーティストなんだから音楽だけやっていてください」というコメントを送る人もいた。しかし、SIRUPは動じない。

「知識がある専門家や弁が立つ人しか意見を述べてはいけないなんて文化はおかしい。その問題がどれだけ遠くの地で起きていようが、巡り巡って僕たちの生活にも影響を与える可能性があるんだから」
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インタビュー・文=石原龍太郎 写真=河野 涼

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