米調査機関ピュー・リサーチセンターが9月に1万人を対象に行ったオンライン調査によると、「おそらく接種しない」「絶対接種しない」と答えた人が合わせて47%と半分近くを占めることがわかった。理由としては、安全性や効果を疑問視する声が多かった。
新型コロナウイルスの流行の前から、アメリカだけでなく、世界中で「反ワクチン派」の動きが起きている。欧米ではワクチンと自閉症の関連性を疑って予防接種を拒否する親がいるし、途上国では国連の予防接種キャンペーンに反対する運動がしばしば起きている。日本では、2013年にHPVワクチンの「副作用」の訴えを受けて、厚生労働省が接種の積極的勧奨を中止し、接種率が1%未満になった。
ワクチンによって人類は多くの感染症を克服し、子どもの死亡率を減らすなど多くの恩恵を享受してきた。なぜワクチン反対派は減らないのか。
『Stuck: How Vaccine Rumors Start - and Why They Don’t Go Away(身動きがとれない:なぜワクチンの噂が始まり、無くならないのか)』を執筆したロンドン大学衛生・熱帯医学大学院のハイジ・ラーソン教授は、「ワクチンの噂には、実は重要な真実が含まれている」と話す。反ワクチン運動や予防接種にまつわる誤情報などを研究する彼女に話を聞いた。
──ラーソン教授が立ち上げた「ワクチン・コンフィデンス・プロジェクト」は、長年、反ワクチン運動やワクチンにまつわる噂について調べています。なぜこのような研究を始められたのでしょうか。
私はもともとUNICEFで予防接種プログラムを実施する際のグローバル・コミュニケーションを担当していました。さまざまな国でワクチンに反対する動きや噂が広まるのを繰り返し見続けてきましたが、この現象についてもっと詳しく調査し、分析することが重要だと考え、大学でこのプロジェクトを始めました。チームには社会科学、心理学、政治学、疫学、数理モデル、デジタル・メディア分析などさまざまな分野の専門家が参加しています。
我々のプロジェクトの重要な目的の1つは、ワクチンの接種拒否が始まる前の「シグナル」をいち早く見つけることです。危機的状況になる前に察知して迅速に介入することで大きな被害は回避できます。現地に行って調べてみると、実は数カ月、時には何年以上も前から噂が出回るなど兆候が出ていたけれど、当時は深刻さに気づかず、後に大きな問題になってしまった、というケースが大半でした。
プロジェクトの設立当初は、オンライン上のニュース記事やブログ、コメントなどを中心に情報収集していましたが、その後はSNS上の会話やコメントが重要な監視対象になりました。そのような情報分析と同時に、人々のワクチンに対する考え方の変化を測る「ワクチン・コンフィデンス指標」も策定しました。ワクチンの安全性、効果、重要性の3つで人々の意識調査を行い、その遷移を調べるものです。
人々の意識の変化を早い段階で察知できれば、迅速な対応ができます。例えば、高いワクチン接種率を維持している国でも、この指標が下がっていれば人々は懐疑的になりつつあるということです。接種率を維持するために、いまアクションが必要だとわかります。
同プロジェクトが実施した、世界149カ国の約28万人を対象にした2015年から2019年までの大規模調査の結果が9月に医学雑誌Lancetに掲載されました。国によって傾向が異なりますが、残念ながら日本はあまりうまくいっていません。安全性、効果、重要性の3つすべてで低い。ちなみに指標が一番高いのは中国、低いのはロシアです。