なぜ「デマ」が絶えないのか。反ワクチン運動と「噂」の研究

ハイジ・ラーソン ロンドン大学衛生・熱帯医学大学院教授


1. MMRワクチンで自閉症?


麻疹、風疹、おたふくかぜの三種混合ワクチンの「MMRワクチン」が自閉症と関連がある、という話は世界に広がった噂の1つ。イギリスの元医師、アンドリュー・ウェイクフィールドが1998年に発表した論文がきっかけだった。論文はのちに撤回されるが、子どもの自閉症の原因を解明したいと願う保護者の支持を集めた。

2. 破傷風ワクチンで不妊に?


何度も繰り返し現れる噂の1つが「ワクチンで不妊になる」というもの。特に破傷風ワクチンは、妊婦や思春期の少女が接種推奨の対象になることから、政情不安な途上国などで接種すると少女たちが不妊になるという噂が流れてきた。政府や現行システムに強い懐疑心を抱いている地域で噂が絶えない。

3. HPVワクチンで後遺症?


子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス感染症を予防するHPVワクチン。日本では年2800人が子宮頸がんで死亡。2013年に積極的接種勧奨が中止になると接種率は70%から1%未満に激減した。北海道大学の調査によると、この措置によって今後50年で子宮頸がんの死者が約1万人増えたと予想。

4. 受けない方が自然で安全?


「自然に任せるべき」という自然派志向に基づいてワクチンに反対する人も。背景にホメオパシーや自然療法といった代替医療の流行があり、遺伝子組換え食品や化学化合物を避けてオーガニック食品を選ぶのと同じように、ワクチンを受けないことが「自然で安全」だと考える。科学的知見よりも個人的な体験を重視。


Heidi Larson◎ロンドン大学衛生・熱帯医学大学院教授。専門は人類学、リスクと決断科学。ワクチン・コンフィデンス・プロジェクト(VCP)の所長。前職では、UNICEF(国連児童基金)で予防接種にまつわるコミュニケーションを指揮。ワクチンと予防接種のための世界同盟「GAVI」や、WHO(世界保健機関)の予防接種に関する戦略諮問委員会「SAGE」にも携わる。予防接種プログラムなど、国や国際的なヘルス施策に影響を与える社会的、政治的な要因を分析。

文=成相通子 イラストレーション=山崎正夫

この記事は 「Forbes JAPAN No.076 2020年12月号(2020/10/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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