太刀川:消毒薬の種類についても説明していただけないでしょうか。例えば、界面活性剤やアルコールなどの違いについて、意識している人はあまり多くないと思います。
坂本:消毒薬にはどれも、抗菌スペクトル(どんな微生物に対して、どのくらい発育を阻止できるかを示した図表)があって、ウイルスについてはエンベロープ(脂質などでできた膜)の有無で効果のある消毒薬が異なります。アルコール(濃度60%以上)と界面活性剤は細菌や新型コロナウイルスのようにエンベロープがあるウイルスには有効です。次亜塩素酸ナトリウム(0.02~0.05%)はウイルス全般に有効です。使いやすいものを選ぶとよいでしょう。
最近話題になっている次亜塩素酸水について言えば、精製してすぐに接触する面をひたすようにして使用するなら消毒効果が期待できます。しかし、時間の経過や有機物の存在で不活化されてしまうこともあり、使いづらいところがあります。
「消毒証明書」がナンセンスな理由
岡部:陽性患者が発生した飲食店などから消毒作業のご相談を受ける場合など、「消毒証明書」の発行をお求めになられる方がかなりいらっしゃいます。そのような場合、証明はできかねるということを丁寧にお伝えし、ご理解を頂く努力をしているという状況なのですが。
坂本:ウイルスを環境から完全に消滅させたという証拠は出せないですよね。また時々「感染者が発生した事務所や店舗を消毒のために数日閉めた」という報道を耳にしますが、消毒に不必要に長い時間をかける必要性はないと思います。実際には、人が頻繁に触れるような感染リスクの高い環境表面を消毒すればよいだけですので。
医療機関では、新型コロナウイルス感染症の診察を行ったあとでも、患者さんや医療従事者が触れた場所を前述の消毒薬で拭いているだけで、その所要時間は数分です。当然、ウイルスが床にいることもありますが、しかし、床の上を転がったり、床を手で触った後に顔に触れたりしない限り、床の上のウイルスが問題になることはありません。
何となく環境から感染しそうというイメージを持っている方もいらっしゃるのかもしれませんが、その考え方は微生物の存在が明らかになっていない時代に存在した「瘴気」という考え方に近いと思います。病気を引き起こすのは「汚れた空気」あるいは「汚れた環境」だという曖昧なイメージを抱くわけですね。
しかし、新型コロナウイルスは特定の感染経路からしか感染しません。環境表面からノミのように人間に飛び移ってくるわけではないのです。従って、感染者が利用した環境において、消毒を要するのは人が頻繁に触れる場所であり、そこをきちんと押さえていれば、接触感染するリスクは極めて低くなると考えてよいでしょう。