なぜ米有権者は3時間も行列しなければならないか

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全米の一般有権者が「勝者による総取り」方式で投票


そしてついに11月3日、全米の一般有権者が投票する。この日、全米の一般有権者が選出するのは、各州に割り当てられた数の民主党あるいは共和党の「大統領選挙人(electors)」である。

この一般有権者による投票は、「勝者による総取り(winner-take-all)」方式で行われる。すなわち両党の大統領候補のうち1票でも多く得票した候補が、その州の大統領選挙人を独占する。だから、前回2016年の大統領選のときのように、クリントン候補がトランプ候補より多くの一般有権者投票を獲得しながら、大統領選挙人票では敗れるという事態も起こり得るのである。

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大統領選の当落は、全米50州と首都ワシントンの持つ大統領選挙人の合計538人の過半数を獲得した場合に決せられる。

過去の大航領選の実績(たとえば2016年、以下表)を見ると、民主党はリベラルな東部諸州、共和党は保守的な南部諸州で圧倒的に強く、結局、両党の激突は中西部と西部諸州で展開されていることがわかる。

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2021年1月20日、就任宣誓式


かくして選ばれた新大統領は、2021年1月20日、連邦議事堂前で開かれる就任宣誓式に臨む。世界各国から政府首脳、外交使節のほか、新大統領と親しい内外の政財界人などが招かれる。日本から誰が招かれるか、毎回注目される。とはいえ、そこは真冬、寒風吹きすさぶ広場である。

1840年、それまでの大統領としては最高齢だった68歳のウィリアム・ハリソン(第九代)は、手袋もオーバーコートも着ないで1時間45分もの長い就任演説をし、肺炎を起こして1カ月後に死去した(以上は、アル・ゴア元副大統領の実娘による小説『大統領選挙とバニラウォッカ』に所収の筆者自身による解説を改稿)。

投票項目は180? 「長い投票用紙」をめぐる議論も


さて日本人は、トランプ氏かバイデン氏かを選ぶのに、なぜ有権者が寒空の下2〜3時間も行列しなければならないのか、不思議に思わないだろうか。なぜ、投票するのに、こんなに時間がかかるのか。

日本では「米大統領選挙」と言われるこの選挙だが、その他に米連邦議会の上下両院議員、各州知事、各州議会の上下両院議員(モンタナ州だけは1院制)、各市郡町村の首長、その議会議員(2院制も多い)、その他、自治体の教育委員や消防委員なども併せて実施される。日本の総選挙(衆議院議員選挙)、参議院選挙、知事選挙、市町村長選挙、都道府県議会と市町村議会の議員選挙などを、同じ日に実施するようなものだ。

また、米国では各州や自治体の難しい案件を住民投票によって決する場合が多く、これも大統領選挙を機に、併せて実施される。

米国ではこの「long ballot(長い投票用紙)」の長所と弊害が議論されている。筆者が1966年に研究したころ、米国の極端な地域では投票項目がなんと180もあった。

今回は高まるか、ハワイ州の投票熱 


米国の国土は広大で、いくつもの時間帯にまたがっている。このため、ハワイ州などでは、これから投票が始まるという時間に、早くも3大テレビのどこかが、大統領候補の当選確実を打ち出しているのが通常だ。これでは有権者は気勢をそがれ、投票所に行く意欲を失う。そこで、これまでハワイ州は何回も、民放各社に「ハワイ州の投票時間が終わるまで、大統領選挙の当選確実を発表しないでほしい」と要請したが、交渉はまとまっていない。

前述したように、この大統領選挙では、その他、多くの公職や案件が投票にかけられる。従って、投票率低下のもたらす弊害は大きい。しかし、今回の大統領選挙に関する限り、大接戦で、トランプ陣営が様々な策略を展開することが予想されており、3大テレビも早期の当選確実を打ち出しにくい状況のようだ。ハワイ州民も、強い国政参加の意欲を減退されることなく、投票所に向かうことが出来るのではないか。

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文=湊 和夫 作表=長谷川 寧々 構成=石井 節子

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