ビジネス

2020.10.29

「起こった未来」とは何か。ポストコロナ時代の予兆と獲得すべきシナリオ

経済が混沌とする中で、すでに見えている予兆とは何か


輸送物流業界の例を簡潔に示すと、以下のようになります。

運輸で起こった未来

【歴史の教訓】

・中国ではSARSの蔓延でECが爆発的に成長
 →COVID-19で国内でもECがより拡大
・リーマンショック後の不況から、ウーバーやエアビーアンドビー等のシェアリングサービス普及
 →企業のリスク対処として固定資産からシェアリングサービスへ切替え加速

【テクノロジーの進化】

・EC浸透でデータ拡大・IoTの普及
 →需要予測(モノ・ヒトの移動)がよりリアルタイムに、より正確に


これらの要素から、未来シナリオを考察します。

シナリオ

───なるほど、まず起こった未来をしっかり分析できているか。歴史も振り返ってみて、教訓をピックアップできるか。自分たちの業界のテクノロジーは進んでいるのか。その後に、未来シナリオを描けるかという流れですね。未来シナリオが描けない一番の理由はなんでしょうか。

実は、このロジックにはこれらフローの「前段階」、出発のゼロ地点が必要なのです。これは既存事業の寿命を測るということです。

例えば、われわれの人生に置き換えた場合、私が余命1年と宣告されたとすると、私はあと20年生きたいので、寿命が増える施策があれば片っ端から試します。何もしないという選択肢は取れない。一方、あと40年は生きられる自信があれば、リスクがある長寿のための施策はやらない。つまり何もしないという選択肢が取れるのです。

ビジネスに置き換えますと、既存事業の寿命が見えていないと、何もやらないという選択肢が取れてしまう。あらゆる変革にはリスクが伴うので、そのリスクを回避する(変革をしない)ために、都合のいい未来だけを構想したり、歴史的な出来事や他業界の教訓から、やらない理由を説明できるものを抽出し、変革を回避する意思決定がされることが多々あります。

───自分たちの余命を予測、分析する能力はかなり高度ですね。

確かに日本企業は苦手です。ただ、ドラッガーの言葉を借りると、壮大なシナリオを描く必要はなく、身近で起こった変化を記述する、いわゆる、起こった未来の言語化から始めると良いと考えます。

 重要な第一歩


───変革への第一歩として、取るべき行動はなんでしょう。

中間管理職が事業家になることです。中間管理職はネガティブな響きがありますが、自分がコントロールできない利害関係者がいるという意味においては、社長を含むあらゆる経営陣も中間管理職と言えます。そのような状況下でも、優秀な創業者や経営者は、決して株主や金融機関からの要望をそのまま部下には伝えない。必ず自分の言葉でチームに語り掛けます。たとえどんな制約があろうとも、心を揺さぶる物語を作ります。

一方、ビジネスの現場からは、「俺は中間管理職だから、言われたことをやるだけ。上がやれと言っているから……」という声を耳にします。こうした環境の中で、中間管理職は非常に高い能力が求められます。

前線で頑張られているプロジェクトリーダークラスの方々にはぜひ、自らのシナリオ描き、語ってほしい。彼らに事業家たれと、喚起したいですし、そういう方が日本企業を変革に誘うと強く信じております。

中村氏の写真
中村健太郎◎アクセンチュア株式会社 ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ インダストリーコンサルティング日本統括 マネジング・ディレクター

文=坂元 耕二

ForbesBrandVoice

人気記事