「さあ、それでは本題に入らせていただきます!」と口火を切る。既にリモートで打合せを重ねてきているので、提案内容に漏れはない。この会議を通してクライアントの信頼を得ることができれば、商談獲得につながる。
商談中は、舞台に上がった役者のように、高揚した気持ちで饒舌に話をする自分がいた。話をしながら、相手の表情、雰囲気を感じ取り、言葉を修正しながら説明を続けた。理解されていなさそうな部分は、簡単なたとえ話を差し込んだ。相手方が不安を感じていそうなところは、大きな声で自信を持って話した。30分間の説明となったが、この時間を楽しんでいる自分がいた。
「ご説明は以上です。よろしくお願いいたします」。
社長がゆっくりと口を開いた。「こちらこそ、当社のパートナーとしてよろしくお願いします」。商談は無事に成立した。
その後、社長が別れ際に「鈴木さんとは、また、別の機会にお話をしたいですね。今日は本当に楽しかったです」と声をかけてくれた時には、とても充実した気持ちになった。この体験を通して私は、デジタルとアナログの融合が、人間の感覚を研ぎ澄まして、新しい可能性をもたらすのだと確信するに至った。
デジタルとアナログの融合が、人間の感覚を研ぎ澄ます(Unsplash)
デジタルとアナログの融合が感覚を研ぎ澄ます
人間は、コンピューターとは違い、感情や感覚を持つ生き物だ。仮に、何もやることのない単調な日々を送っていれば、人間は「つまらない」と感じて、「刺激」が欲しくなる。逆に、変化の激しい日々を送っていれば、人間は「休みたい」と感じて、「安定」が欲しくなる。充実した日々を送るためには、安定した日々と刺激のある日々のバランスを考える必要がある。
「デジタル」と「アナログ」のうちにもこれと同様の関係が見いだせる。長期間のリモート生活を続けた後にリアルでの生活へと戻ると、すべてが新鮮に感じられる経験をしたのは私だけではないだろう。デジタルを活用するからこそアナログの良さに気がつくことができるし、逆もまた然りというわけだ。互いの良さを活かし、デジタルとアナログが融合したときに、私たちは新たなポテンシャルを発揮することができる。
「デジタルシフト」の進展が加速していくと聞くと、AIやロボットが人間を支配する冷たい世界がやってくると想像してしまう人もいるが、私はそんな未来は絶対に訪れないと思っている。人間はテクノロジーによる合理化を進める一方で、森林の空気のおいしさのような非合理的な感覚をも愛しており、それをあっさりと捨てるようなことはきっとないからだ。
デジタルシフトが目指すべきことは、生活の全ての面を極端にデジタル化することではない。むしろ人間と調和しバランスが取れたゴールを目指すことが大切だ。東洋思想に「陰と陽」の調和という考え方があるように、なにごとにもバランスが大切だ。そのバランスは画一的であってはならず、人や状況に応じて柔軟に変わる形が望ましい。
「デジタル」と「アナログ」の組み合わせ次第では、生活に無限ともいえる選択肢が生まれてくる。選択の幅が広がることで、個人個人の仕事も、私生活も、そして人生もバラエティに富んだものになっていくだろう。そして何よりも、デジタルとアナログの切り替えを上手くコントロールすることで、自らの感覚を常に研ぎ澄まし、新しい可能性へと開くことができるのだ。
連載:デジタルで人生を豊かにする「デジタブルライフ」
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