今回の選挙は、歴史的にみても非常に重要な選挙だと言われている。アメリカの分断がこれまでにないほど如実に現れた選挙だからだ。人種間の対立だけでなく、新型コロナウイルスのパンデミックからの経済再開をどうするのかという点でも、国民の意見は割れている。さらには、極右と極左が顔を見せる暴力行為も起きている。
そんな混乱を煽っているのは、ほかでもないドナルド・トランプ大統領だ。彼はマスクを着用する人を揶揄し、死者が出ている危険なデモ行為を否定することもしない。それどころか、大統領選の討論会で白人至上主義者らを「鼓舞」するくらいだ。トランプ陣営は分断を煽ることで支持を伸ばそうとしているわけだが、これが行き過ぎると大統領選の投開票結果を受けて、8月にオレゴン州やウィスコンシン州で起きたような暴動が発生する危険性もある。
トランプは対立を生む大統領であり、多くのメディアがそのような彼の言動を批判しているが、ある意味では、その恩恵を最も受けているのもメディアだと言える。
例えば、朝から晩まで24時間ずっとトランプ批判を繰り広げている米ニュース専門チャンネルのCNN。平日のプライムタイム(日本のゴールデンタイム)の視聴者数は195万人に達し、昨年の同時期と比べて120%増加している。そのプライムタイムを担当しているのは、著名なジャーナリストであるアンダーソン・クーパー、ニューヨーク州知事アンドリュー・クオモの弟でジャーナリストのクリス・クオモ、黒人アンカーのドン・レモン。3人とも見事なまでに反トランプである。
CNNのジェフ・ザッカー社長は現状について、「過去40年で最も多くの人が見ている」と語る。1980年の放送開始からこれまでで最も調子がいいらしい。最大の要因の一つは、言うまでもなく、CNNを常に「フェイクニュースだ」とヤジっているトランプ大統領のおかげである。
しかもザッカーは、「われわれはいろいろな調査を行っているが、どの調査でもCNNが最も信頼できるメディアだという結果が出ている」と言う。だがこれは言い過ぎだ。アメリカのシンクタンクであるピュー・リサーチ・センターの調査では、2014年に共和党員の33%がCNNを信用していないと答えていたが、それが2019年11月には58%とかなり増えている。ザッカーの言葉はトランプばりの大言壮語と言えるかもしれない。
もともとトランプとザッカーは家族ぐるみで友人同士であり、子どもたちはニューヨークの同じプライベートスクールに通っていたほど。ファーストレディのメラニアとザッカーの当時の妻は一緒にランチをするほどの仲だった。しかし、2016年の米大統領選でCNNが視聴率が取れるとしてトランプ叩きを激化させたことで、2017年にトランプ大統領はCNNを見切り、ライバルであるFOXテレビを贔屓にするようになった。