本業以外を活性化させることがポイント。市場規模15兆円への「逆転シナリオ」を探る


批判が感謝に変化した組織


「(コロナ前の)ドーム稼働率が93%。つまり、これ以上、売上げは大きく伸びようがない。さらには、ビジネス上、球場施設の運営というインフラのような会社に捉えられる可能性もあり、社員にとって何のためホークスで働くのかわからなくなると思いました」

グランプリ受賞企業である福岡ソフトバンクホークスのCEO兼オーナー代行、後藤芳光はそう話す。だが、社員のモチベーションを下げる大きな課題は他にもあった。



まず、野球人口はサッカーに抜かれている。さらに少子化。ファンを増やすにはハードルが高くなっている。次に組織の問題。球団内に対立が生まれる構図があったという。

「試合をやるアスリート集団の球団と、事業サイドのグループがあり、以前は2社に分けていました。しかし、私から見ると、セクショナリズムに陥っていたように感じられました」

選手たちは野球に専念したい。一方、営業側から見ると、球団はコストセンターに見える。そこで2013年、後藤は社長に就任すると、事業サイドの福岡ソフトバンクホークスマーケティング株式会社と球団を2014年に合併させた。

「チームの強さこそブランドです。強ければ強いほど売れる。その利益は球団に還元され、報酬、施設、サービスに反映される。この仕組みをお互いが理解しあうことで、感謝をする関係ができました。この関係がシナジーを生んだのです」

営業のモチベーションを上げる取り組みの一つが、「本質的営業利益」という独自の指標である。これは親会社との広告取引などを除外し、営業の努力で得た数字だけを評価するものだ。その結果、ドーム内のスポンサーラウンジや飲食にバリエーションが増えた。客を増やすための細かい工夫やサービスが至るところで見受けられる「創意工夫の集団」が誕生したのだ。

また、新規事業にも積極的に取り組む。HKT48の劇場やエンターテインメント施設を備えた福岡の新名所となったビルBOSS E・ZO FUKUOKA(ボス イーゾ フクオカ)もその一つ。プロ野球球団から総合エンターテイメント企業へと脱皮したのだ。

さらに2軍3軍という下部組織を「投資」と切り替え、福岡市内から福岡県筑後市に2軍施設を移転。将来のスターを見るために2軍の試合の観客は10倍以上に増えて、週末は家族連れで満席となった。選手育成からビジネスの仕組みまで、細かな工夫を一気通貫させた総合力で「価格以上の価値」を生み出したのだ。
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text by Forbes JAPAN / photographs by Ko Sasaki

この記事は 「Forbes JAPAN No.076 2020年12月号(2020/10/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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