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2020.12.04 08:00

「こんまり」を生んだ土井英司が明かす、計算づくしの世界戦略


「神道イズム」で海外セレブを悩殺


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Getty Images

土井が『人生がときめく片づけの魔法』をスピリチュアル本に仕立て上げる上で重要視したエッセンスはもう一つある。それは、「神道イズム」だ。

近藤が土井の「教室」の扉を叩いた2008年にはすでに、スティーブ・ジョブズが禅を実践していたこともあり、「Zen」「Wabi-Sabi」といった言葉が英語圏で当たり前に使われ始めていた。世界的に仏教、あるいは神道的な精神のあり方への興味が強くなっていたのだ。

海外のセレブリティはとりわけ、こういったトレンドに敏感だ。だからこそ土井は、世界共通の教養として注目を集め始めていた日本の精神性の象徴ともいえる「神道」を、同書の「核」に据えたのである。その核こそが、「モノ」に支配されることに疲れ、精神の物質主義、即物主義を去ることへの憧れを強めていたアメリカ人たちを虜にしたのである。

「ギリシャ」と「職人性」も悩殺条件に


米国で『人生がときめく片づけの魔法』の英語版 『The Life-Changing Magic of Tidying Up』が人気爆発した裏には、もうひとつ、アメリカ人の「ルーツへの憧れ」も深く関わっている。

土井は大学時代、ギリシャへの留学を体験した際、気づいたことがあるという。それは、多くのアメリカ人が「自国の歴史の浅さ」をコンプレックスに持つこと、そしてそのために彼らの多くがギリシャに世界文明のルーツを求め、ギリシャ文化を基礎教養として身につけようとすることだった。この経験から、「アメリカ人は伝統や精神性、歴史ある文化に惹かれる」ことを身にしみて感じたという。

世界、とりわけアメリカ人が日本に惹かれるのも、「経済大国」のイメージなどではなく、歴史、伝統、文化、クラフトマンシップにほかならない、と土井は言う。

2015年、近藤が『TIME』誌で世界で最も影響力のある100人に選出された際、授賞式で着ていたのも、古代ギリシャの美のシンボル「ペプロス・コレー」の像をイメージした真っ白なドレスだった。世界が注目する授賞式で彼女にギリシャの歴史的雰囲気をまとわせ、「神聖でスピリチュアルな存在」に仕立て上げることにも土井のアドバイスがあったという。
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文=初見 真菜 編集=石井 節子

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