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2020.12.04

「こんまり」を生んだ土井英司が明かす、計算づくしの世界戦略

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パーティーで「100万部やりたいです」と言った近藤の本気を、土井は受け止めていた。しかし片づけ本で100万部を達成するには大きな壁があることも、彼は熟知していた。

既述の通り土井は、「エリエス」設立以前、アマゾン ジャパンで書籍のバイヤーとして活躍していた。そして、当時「Decision Maker」というアマゾン固有のデータ分析・需要予測ツールを駆使し、日本国内のみならず、世界のアマゾンカスタマーの書籍購買行動を研究していた経験から、「片づけ本は50万部が限界」と知っていたのだ。

ミリオンセラーを狙うなら「片づけ」というジャンルを超えて行かねばならない。そこで土井が狙いを定めたのが、「スピリチュアル」というまったく別個の巨大ジャンルだった。刊行の遥か手前の段階で彼の脳裏にデザインされていたのは、「片づけ本を偽装したスピリチュアル本」だったのである。米国の書籍マーケットにおける最大ジャンルの一つのエッセンスを取り入れる──。彼はそんな「逆算」的発想で世界制覇をもくろんだのだ。

結局、人を動かすのは「ドラマ」


では、具体的にはどうやって、片づけ本をスピリチュアル本へと変容させたのか。実はここには、土井が、野口嘉則の『鏡の法則』というコーチング関連書のコンサルティングをした時との共通点がある。

当時、土井が野口に伝えたのは、「コーチングの本を書くなら、コーチングのスキルではなく、その裏側にある人生ドラマを書かなければならない」ということだった。

人は何かに悩んでいるから、コーチングを求める。しかも人は、悩みの裏側にある「ドラマ」の方に興味を持つ、ということを土井は知っていた。だから近藤に対しても、「片づけるとき、人はただ物を捨てているのではないはず」と話した。おそらく「思い出」や「しがらみ」も同時に捨てているはずだし、そういうところにこそ人は心を動かされるはずだ、と。

かくして『人生がときめく片づけの魔法』は、「整理整頓の実用書」のカテゴリーをはるかに越えて、心そのものを整える、人生をリデザインさえする自己啓発的書として世に問われたのである。
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文=初見 真菜 編集=石井 節子

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