フードポルノに釘付け? コロナと「スローエンタメ」の甘い関係

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なんだか気持ちが落ち着かない? だったら、チーズのしたたる動画を見てみたらどうだろう。ユーチューブで「モーズ・サウスウェスト・グリル(Moe’s Southwest Grill)」を検索すれば、スペイン生まれのチーズ、ケソが心癒やされる音楽に乗ってゆっくりとしたたり、渦を巻き、沈んでいく8時間の動画を堪能できる。


チーズのしたたる動画:モーズ・サウスウェスト・グリル(Moe’s Southwest Grill)

これは、ここ数年トレンドになっているASMR(自律感覚絶頂反応)のひとつである。ASMR動画とは、視覚や聴覚を刺激して不思議な快感をもたらすものの総称で、おいしそうな料理の動画や写真をSNSに投稿する、いわゆる「フードポルノ」などに代表されるスロー・エンタテインメントのことを差す。これこそ、コロナ禍で心落ち着かない日々を過ごしている人々にはうってつけのものかもしれない。

デジタル時代の新トレンド


デジタル時代ならではのこのトレンドに便乗したのは、モーズ・サウスウェスト・グリルが初めてではない。それまではごくわずかな人の強迫観念のようなものだったASMRが主流に躍り出たのは、2019年のスーパーボウルでゾーイ・クラヴィッツが視聴者にささやきかけながらミケロブ・ウルトラ・ビールのキャップを開けて中身を注ぐCMが流れてからだった。

またその前年、清掃用品メーカーの「カブーン」は自社製品が汚れを落とす様子とその音をひたすら映したおしゃれな動画を使って、「不思議な快感」キャンペーンを展開している。

フードポルノについては、むしろ企業が先駆者とも言えよう。商品をクローズアップしてパン撮りする手法はファストフード業界では昔から使われていた。昨年レクサスは日本の伝統工芸職人「匠」をテーマに6万時間のドキュメンタリーを制作して、スロー・エンタテインメント流行の先駆けとなった。

こうした動画が注目を浴びることに戸惑う人も多いようだが、デジタル新時代においては決して不思議なことではない。まして、新型コロナウイルス流行のさなかということを考えれば、大いにうなずけることである。

ASMRという言葉は2010年代初頭からすでに使われており、ユーチューブにはこの手の動画が1000万本以上アップされている。ささやく声や本のページをめくる音、ガムを噛む音、食べ物を咀嚼する音、爪で何かを叩く音といった様々な心静まる音を聞くことができる。


340万回視聴「ASMR Intense Relaxation for Sleep and Tingles (Close Whisper)」


4602万回視聴「ASMR HONEYCOMB (Extremely STICKY Satisfying EATING SOUNDS) 」
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翻訳・編集=小林綾子/S.K.Y.パブリッシング/石井節子

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