──多国展開する上で、買収後のPMIについてもお聞かせください。
まずは自分たちの国の常識を押しつけないこと。日本の常識が世界の非常識であり、インドの常識もまた世界の非常識。要は、各国によってローカルルールがあるので、それを尊重することを大切にしています。
先進国出身の人にありがちなのが、途上国にいった時にその国のことを馬鹿にした態度をとってしまうことです。それでは現地の方々の信用を得ることはできません。
弊社の場合、現地主導で自立的に経営してもらうことを大切にしています。リーダーはあくまで現地であり、本社はあくまでサポート役という関係性です。
──様々な国のローカルルールをそれぞれ理解する上で大切にしていることはありますか?
実際に足を運んで、顔を合わせてコミュニケーションをとることが基本です。その上で、簡単に理解した気になって決めつけないことを大切にしています。
ガンジーがインドに20年以上ぶりに帰国した際に、彼の師匠が「インドを20年以上離れていた人間は、インドについて意見を言ってはならない」という言葉をかけたと言われています。
私もその通りだと思っていて、たかだか数年いたくらいでは真にその国のことを理解できるものではありません。
例えばミャンマーのロヒンギャで起こった大虐殺は、国際世論からはかなり批判されているものですが、ミャンマーに住む人たちに話を聞くと、誰もが「ロヒンギャの人々が悪い」と話してきます。
これを「洗脳されている」と決めつけるのは簡単ですが、現実はそんな単純な話ではありません。教育から政治、宗教、歴史まで、その国の様々なシステムが絡み合って起こっているのです。
それだけ1つの国を理解するというのは本当に大変なので、簡単に理解した気にならないこと「自らの無知を知り、謙虚に学び続ける姿勢」が多国展開を進めるうえでは特に大切だと思います。
慎 泰俊◎1981年生まれ。朝鮮大学校法律科および早稲田大学ファイナンス研究科卒。モルガン・スタンレー・キャピタル、ユニゾン・キャピタルにおいて8年間にわたりPE投資実務に携わった後、2014年に五常・アンド・カンパニーを共同創業。全社経営、資金調達、投資等の全般に従事。金融機関で働くかたわら、2007にLiving in Peaceを設立(2017年に理事長退任)し、マイクロファイナンスの調査・支援、国内の社会的養護下の子どもの支援、国内難民支援を行っている。
連載:起業家たちの「頭の中」
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