──このゴール設定は創業初期から考えていらっしゃったのでしょうか?
はい。創業初期に作った事業計画書は、今読み直してもかなり精度が高いなと思います。少なくとも過去5年間は予定通りでした。こういった「ロバストな思考」というのは、時間をかけて作られると思っています。
例えばニュートンの「プリンキピア(全3巻。1687年刊。力学の一般法則を定式化したもので、ニュートン力学の体系を確立し近代科学の基礎となった)」は、彼が10ヶ月ほど引きこもって書いたものだと言われています。あれだけの天才ですら、それだけ時間をかけないと大きな思想は作れない。
私の場合は考えるスピードが早い方ではないので、「ロバストな思考」を組み立てたいときはゆっくり時間をとって考えます。最初の事業計画を作った時も、2〜3ヶ月引きこもって作りました。
──それだけの時間を確保するために工夫していることはありますか?
今ちょうど新しい中期計画を練っているタイミングなので、できれば1ヶ月くらいバケーションをとってどこかに引きこもりたいところなのですが、なかなかそう簡単には行きませんね。ただ、職業柄飛行機によく乗るので、一人きりで考える時間が長くあることは有り難いです。
多忙な起業家にとっては暇を確保するのは大変ですが、大きな思想・構想をつくり上げるためにはまとまった時間が必要というのが私のモットーです。その場で瞬発的に思考することと、時間がかかっても色褪せない思考をすることでは脳のモードが違うんですよね。歴史を見ても、慌ただしく過ごしながら100年以上残る思想を残した人を私は知りません。
「人を見る目」を養う
──M&Aも積極的に実施されています。M&Aを成功させる上で気をつけていることをお聞かせください。
まず買収前のデューデリジェンスでは経営陣の精査にすごく時間をかけています。あとはエコノミクス、つまり我々が株主から期待されているリターンを達成する上で、割に合うのかきっちり見ています。
各国での展開にも通じますが、マクロの状況と経営者のクオリティが事業の成否のほとんどを決めます。この見極めがM&Aを成功させる上でもほとんどの部分を占めていると思います。
──具体的に、経営陣のどこを見ていらっしゃいますか?
第一印象を大切にしています。私は人物鑑賞が好きで、人がスピーチしている時でも内容よりその人の立ち居振る舞いに関心がいってしまうタイプです。実は、人生で「この人はきっといい人だ」という第一印象を外したことがありません。
美術作品なども同じだと思うのですが、とにかくたくさん作品を見ていれば、初めて見た作品のなんとなくの価値がわかるようになりますよね。時価総額だけで会社の価値が決まる訳ではありませんが、創業社長で時価総額1兆円を達成した人の第一印象はものすごいものがありますし、10兆円企業となると化け物じみています。
どれだけたくさんの人、特にリーダーたる人を見てきたかどうかが、第一印象の打率を高めてくれているのだと思います。
加えてもう少し具体的なことを言うと「言動が首尾一貫」しているか、「お金の使い方」「自分よりも立場が弱い人に対する振る舞い」の3つをかなり見るようにしています。この3つには人格が分かりやすく表れると思っているからです。
普段から人を見ることに関心を持つことが、結果的に経営者の見極めにも役立っていると思います。