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最先端の経済誌「Forbes JAPAN」の記事紹介

ファイザー会長兼CEO アルバート・ブーラ

いま、160を超す新型コロナワクチン候補の開発が進み、一部は臨床試験の最終段階に入った。先頭集団を走るファイザーのCEO、アルバート・ブーラに今年5月、米Forbesが行った取材記事を紹介する。


「考え方自体を変えよう(Think in different terms.)」と、ファイザーのCEOアルバート・ブーラ(58)は会議室に集まった社員一同に告げた。3月初旬のことだ。

「金の心配はないと考えてくれ。ワクチン開発を順にではなく同時並行させることを考えよう。承認取得前に生産体制を確立することを考えよう。もし実用化に失敗しても、それは私が思い悩めばいい。投じた数十億ドルは損失計上するだけだ」

ギリシャ生まれの獣医師であるブーラは、25年かけてファイザーの社内階層を上りつめ、2019年1月にCEOに就いた。しかしそのキャリアの何ひとつとして、このパンデミックへの備えにはならなかったと彼は言う。それでも彼の主導してきた「改革」が、ファイザーという会社にとっての備えにはなったはずだ。その改革とは、売り上げが500億ドルを超える巨大コングロマリットを、ジェネリック医薬品や大衆薬ではなく、ハイリスク・ハイリターンの新薬開発に注力するよう舵を切るという一大転換だった。

ブーラのルーツは、エーゲ海に面したギリシャ第2の都市、テッサロニキにある。ブーラは酒店を営む中流家庭で育った。一家はナチスドイツによる占領とホロコーストを生き延びたユダヤ系少数民族の一員だった。動物と科学が大好きだったブーラは、獣医になることを志した。1993年にファイザーのギリシャ事業所に加わると動物医療の部門で働き、出世街道を駆け上がった。

14年にはマンハッタンのファイザー本社で重役の座に着き、ワクチンとガン治療薬の部門を率いた。彼はお堅いコングロマリットに地中海の風を持ち込んだ。彼の参加する会議は実ににぎやかで、普段は静かな廊下にそのときだけはこだまが響くという。

2019年1月にCEOに就任して、まずブーラはCEO用の会議室から巨大なテーブルを撤去した。そして椅子だけを円形に並べ、壁には患者の写真を掲げた。会議をよりオープンにし、また製薬会社の真の目的を思い起こさせるためだった。ほどなくほかの従業員たちも、病を抱えた知人や家族の写真をデスクに置くようになった。ブーラは部下たちに、売り上げの数字だけでなく、何人の患者を救えるのかその数字を示すよう命じた。

CEOに昇格する直前のブーラの仕事は、イノベーション・グループのマネジメントだった。彼はライフサイエンス系のVCを経営するかのようにこの職を務めた。腫瘍学、ワクチン、希少疾患などの6つの事業チームに、資金獲得を競わせたのだ。

ブーラは言う。「全員にこう伝えていました。『私はボスであり、プライベート・エクイティ・ファンドだ。よりよいアイデアをもつチームに資金を渡す』とね」。

「ファイザーほどの規模と小さなバイオテックのような思考様式を併せもつ会社を、私はずっと夢見てきたのです」

文=ネイサン・ヴァルディ 写真=ジャメル・トッピン 翻訳=町田敦夫

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