ビジネス

2020.10.22

ワクチン開発レースを制するのは誰だ? ファイザーが挑む大胆な賭け

ファイザー会長兼CEO アルバート・ブーラ


mRNAワクチンには従来のワクチンをしのぐ大きな利点がある。ワクチン開発プロセスの時間短縮だ。ウイルスの遺伝コードから直接つくることができるため、従来のように数カ月ないし数年を待たずとも、数週間で創出し、臨床試験に入ることができる。ただしmRNAワクチンは大きな賭けだ。前述の通り、これまで誰も開発に成功していないからだ。

mRNAワクチンをつくろうとしているのはバイオンテックだけではない。米マサチューセッツ州ケンブリッジのバイオテックベンチャー、モデルナも1月にこれに着手し、連邦政府から4億8300万ドルの資金を得て、人間を対象とする大規模な治験に乗り出している。

ファイザーはかねてからバイオンテックと友好的な関係にあった。両社は2年前に、インフルエンザ用のmRNAワクチンの開発に向けて、4億2500万ドルの契約を結んでいた。ファイザー側はmRNAの手法を導入すれば、毎年新たに流行するインフルエンザに対応するワクチンを開発する際に、その開発スパンを短縮できるのではないかと期待していた。mRNAワクチンの柔軟性とスピード感が、新型コロナワクチンを他社と共同でつくろうとなったときに、ブーラの心をとらえたのだ。

3月17日にファイザーはバイオンテックと仮契約書を交わした。4月に正式に結ばれた契約書には、商品化についての言及は一切なかった。共同事業に際し、ファイザー側は生産、規制、研究の多大なリソースを提供し、バイオンテック側は基礎科学を提供する。ブーラはこのプロジェクトに10億ドルを投じることを決断した。万事が計画通りに運んだ場合は、バイオンテックに5億6300万ドルを追加で支払うことにもなっている。


ファイザーとバイオンテックが共同開発するmRNAワクチンは、世界的な治験を7月に開始。9月現在、第1相試験での良好な安全性データが公表されており、第2・3相治験の実施を経て、10月の承認申請を目指す

2020年内に数百万回分のワクチンを人々に届ける──このファイザーの目標の実現性については、専門家の間にも少なからぬ懐疑論がある。所属するペンシルベニア大学の研究室でバイオンテックとmRNAワクチンの共同研究を行ってきたドリュー・ワイスマンは本誌の取材に、mRNAワクチンで感染症が防げるかどうかはわからないと述べた。

ブーラは言う。

「10億ドル出したところでわが社はびくともしませんよ。ですがもちろん、その金を失うつもりもありません。このプロダクトを確実に成功させるつもりでいます」


アルバート・ブーラ◎米製薬最大手「ファイザー」会長兼CEO。獣医学博士。1962年ギリシャ生まれ。93年にファイザーのギリシャ支社に入社し、以降25年間同社に勤続。18年1月からCOOを務め、19年1月に会長兼CEOに就任。

文=ネイサン・ヴァルディ 写真=ジャメル・トッピン 翻訳=町田敦夫

この記事は 「Forbes JAPAN Forbes JAPAN 11月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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