つまりこの4人のやりとりにおいて現れてくる関係性は、3つある。
第一の関係性は、加害者家族vs被害者家族。これは事の始まりなので、途中で忘れられる場面もあるが最後まで尾を引く。
第二の関係性は、ネオリベ強者のアランvsリベラル信奉者のペネロピ(配偶者は渋々追従)。2人の対決に、共和党支持者と民主党支持者によるレベルの低い諍いを重ねる人もいるだろう。
第三の関係性は、強権的な夫・妻(アラン、ペネロピ)vs我慢している妻・夫(ナンシー、マイケル)。途中から、第一、第二の関係性を凌駕するほどに、隠された夫婦問題が前面化してくる。
『おとなのけんか』(c)2011 SBS Productions, Constantin Film Produktion, SPI Film Studio, Versatil Cinema, S.L., Zanagar Films and France 2 Cinema. All Rights Reserved.
前半、若干の同情を誘うのは、アランの妻であるナンシーだ。努めて抑制された態度をとっていたのに、息子の飼っていたハムスターを捨てたと漏らすマイケルに突然食ってかかる様子から、この人は日常で何か不安定要素を抱え込んでいるのかなとも思わせる。
だから膠着し険悪となる雰囲気の中で、気分が悪くなった彼女がリビングテーブルに盛大に吐き、ペネロピの自慢の画集やアランのズボンを汚す場面では、むしろ喝采を叫びたくなる。これは、自己主張する暇もなく仕事と家事育児に明け暮れてきた女性から、偉そうな御託を垂れる人々への復讐と言えるだろう。
一方、マイケルの極めて素朴な素顔は、アランとの「男同士」の共感的会話でチラホラと現れる。彼はもともとペネロピのような「意識高い系」ではなく、あまり細かいことを気にしないタイプ。酒が入ったことでついに、やってられるかとばかりにブチ切れる場面は、いっそ爽快だ。
おそらくこの中で、一番の精神的苦痛を味わったのは、ペネロピだろう。プライドの高い女が青筋立てて怒りまくり、気取りも捨てて相手を口汚く罵るその顔は、醜さを通り越して痛々しい。
「何が世界平和だ!」と、開き直って妻を挑発するマイケルを泣きながらポカポカ殴る場面では思わず笑ってしまいつつ、誰でも自分のことは客観的に見られないものだな、との思いを強くする。
すべての登場人物を突き放したシニカルな視線で描くこのドラマの中で、あなたは誰に一番近いだろうか。
連載:シネマの女は最後に微笑む
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