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その決断をしたことで、想像もしていなかった、うれしくもあり、ある意味ショッキングでもある効果が生じた。ひとつは、それまでは始めてから家を購入する従業員がひとりもいなかったのに、毎年のように何人も家を購入するようになったことだ。それを知って、私はとてもうれしかった。

それから、老後資金などの貯蓄率が従業員全体で3倍近くに上がったこと。さらにもうひとつ、最低給与の引き上げによって生じた最高の効果は、これまで従業員に子供ができたという話をほとんど聞いたことがなかったのに、いまでは毎年20人ほどがおめでたい報告をしてくるようになったことだ。

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Getty Images

これ以上、素晴らしい効果は考えられない。7万ドルの最低給与がもたらした影響であり、レガシーとも言える。生まれたばかりの子供は、ほとんど無限の可能性を持っているからだ。人類存続の危機や、がんの治療、地球温暖化など、あらゆる問題を解決してくれるかもしれない。子供たちが今後何をしていくかは誰にもわからない。たぶん私も、いま生じた効果から連鎖的に何が生まれてくるかこの目で確かめられる日は来ないと思う。

──そういった取り組みの陰にはどんな動機があったのでしょうか?

資本主義を発展させたのは人間の利己心だが、それはいつまでも続くものではない。利己心が社会的な価値を生み出すことはなく、むしろ少数の人間が大勢を犠牲にして富と権力を獲得し、独占する道具になってきた。

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2020年10月、ベネズエラ・カラカスで起きた労働運動(Getty Images)

現代社会の誰もが信じ込まされているこの経済モデルは、どう見ても壊れている。では、それに代わるものはあるのだろうか? その答えは、幸福な人生こそが最高の人生だという点にあるのではないかと思う。

言い換えれば、幸福な人生とは人間的な暮らしをしていくうえで必要なものや欲しいものがすべて手に入る人生であり、それを実現するためには必要なもの、欲しいものを確保する一方で、欲求をいくらか抑制する必要がある。そのうえで世の中に貢献し、正しい行いをし、変化と問題解決に力を貸せるように努める。

そうしていけば、当然のことながら、人と人のつながりが生まれる。真の配慮と思いやりに基づき、その思いが行動にも表れる関係を望む者同士のつながりが。そうした関係は人間が当然持っていなければならない基本的なもので、そのことはこれまで科学や歴史、哲学などで繰り返し証明されている。

──この試みから何が見えてきましたか?

数えきれない人から反響があった。われわれと同じか、似たような給与体系を導入した企業もあるという。一般人でも、わが社が行っている最低給与の引き上げや取引先との付き合い方の原則を日常生活に応用して、素晴らしい成果につなげた人がいる。

組織の目的は、人間の生活をよりよいものにすることだ。組織をよくすることが人間の目的ではない。これは企業や組織に対する一般的な見方とは真逆だろう。普通、人は企業や組織を最優先し、全能の組織に仕えるために自分や同僚を犠牲にし、誠実さや忠誠心をないがしろにするが、それは間違っている。何よりも、人間第一であるべきだ。

翻訳・編集=門脇弘典/S.K.Y.パブリッシング/石井節子

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