もちろん、コース料理をフルにお楽しみになるお客様もたくさんいらっしゃいますが、損得ではなく自分が快適に過ごすために本当に必要かということにフォーカスされている点は共通しているように思います。
寝ていただけなのに「ありがとう」という言葉が出る理由
とある外資系エアラインの元CAから聞いたエピソードです。
「あるとき、機材トラブルの関係で、本来ならファーストクラスの設定がある便を、ビジネスクラスまでしかない機材で運航することになりました。その便でファーストクラスの予約をされていた上顧客のお客様に、空港スタッフから事情を説明し、ファーストクラス分の代金は返金するので、ビジネスクラスに変更させていただけないかと申し出たところ、『返金はいらないから、いつも通りファーストクラスのサービスをしてほしい』と言われたそうです。もちろん座席はビジネスクラスのもの、お食事やドリンク、アメニティなどの機内搭載品もビジネスクラスのものしかないことは、ご了承いただいた上でのことです。
いざ飛行機にお乗りになると、そのお客様はお食事をキャンセルされ、ずっとお休みになっていました。寝起きにコーヒーをお飲みになったくらいです。そして『今日も期待を裏切らないサービスをありがとう!』とおっしゃって降りていかれたのです」
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「何か特別なことをしたわけではないのに、『ありがとう』と頻繁に言われる」というのは、ファーストクラスを担当するCAのあいだではよく言われていることです。
私自身、「ありがとう」と言われて嬉しい半面、「改めて御礼を言われるほどのことをできただろうか」と、とまどいを覚えたことが何度もあります。
でもきっとお客様は、お金を払った対価として何をしてもらったかということではなく、 CAが安全で快適なフライトのためにおこなっている基本的な業務や、お客様のニーズにこたえるための気づかいなど、CAにとっては当然と思っている領域のことに対して「ありがとう」と言ってくださっているのではないかと感じます。
損得勘定と引き換えに失われてしまう本当の幸せ
多くの航空会社では、どれだけ食べても飲んでも料金は変わりません。そのため、「元を取らないと損!」と、こちらが心配になってしまうくらいの食事やお酒をオーダーされるお客様もいらっしゃいます。
お恥ずかしい話、私自身ビュッフェなどに行くと「元を取ろう!」とつい張り切って必要以上の量を食べてしまうことが多かったのですが、本当に味わえて食べていたのか、胃が重くなるまで無理して食べることが本当に幸せなのかとふと立ち止まって考えてみたところ、本末転倒だったと気付きました。
ファーストクラスのお客様は、元を取るという考えではなく、揺るぎない自分軸と本当の意味での快適性を重視して、時間や空間にお金を払っていらっしゃるのだと感じます。
見返りという考えを手放し、平和な心で毎日を過ごしていきたいですね。
清水裕美子◎日本航空(JAL)の客室乗務員として国際線ビジネスクラス、ファーストクラスなどを含め約5年乗務する。退職後はCA流美容コンサルタントとしてセミナー、メディアなどで活動するほか、日本初のCAが発信する総合情報サイト「CA Media」を立ち上げる。All Aboutビューティー担当ガイド。最新の著書は、『ファーストクラスCAの心をつかんだ マナーを超えた「気くばり」』(青春出版社、2020年7月刊)。