お米ライターが探る世界と日本のコメ事情



レモングラスとコブミカンを入れた湯でタイ米を茹でる(撮影:金子健一)

タイ米を茹でる際は、レモングラスとコブミカンの葉を一緒に入れた。マツーラによると、「ハーブを入れすぎると香り米の香りが薄まってしまう」。タイ米の香りとハーブの香りを楽しめるバランス、タイ米の香りを楽しみながらも日本米の粘りでむすべる米の比率、タイ米の加熱時間など、何度も試作をくり返した。

完成した塩むすびは、タイ米の香りの向こうにハーブの香りが見え隠れする絶妙な配合で、それぞれの米の粒感がふわりと感じられる仕上りになった。冷めてくると香りが落ち着いてきて口の中に広がる風味に安定感が生まれ、できたてとはまた違ったおいしさを味わうことができた。

日本米から遠いようで近い食味


今回カオホンマリを選んだ最大の決め手は、粘りとやわらかさだった。稲に詳しい農学者の佐藤洋一郎によると、今回使ったカオホンマリはタイ米の中では比較的アミロース含量が低く、粘りがあってやわらかいのだという。もちろん日本米に比べたら断然パラパラとしているが、タイ米の中では最も日本米に近いと言える食味だ。


タイのカオホンマリ

このカオホンマリ、タイで最も人気が高い。佐藤によると、近年では日本米の栽培がタイで広がっており、さらに、タイ東北部ではかつて糯米が常食されていた文化がある。

「タイの人々は糯米の存在を知っているので、日本米は糯米と普通の米の“あいのこ”だということで、なんとなくイメージがつかめるのでしょう。タイの人たちにとって日本米は意外と親和性があると思います」と佐藤は話す。

佐藤によると、アジアの某国ではかつて教科書に「日本の米は量が取れるがまずい」と書かれていた。日本人の「おいしい」は他の国や地域や文化の「おいしい」と決してイコールではない。逆もまた然り。

「嗜好の違いというものは永遠に相容れないんだろうなあと思うが、少なくともタイの人たちは粘りの強いカオホンマリを好んでいる。タイの人たちの米の嗜好性がどこに行くのかとても興味があります」(佐藤)。
米の食味だけでなく、タイと日本は共に「米の国」という点でも似ている。佐藤はこう指摘する。「日本には多くの季節行事があり、その際に食べる料理には米が使われている場合が非常に多い。行事食を共にすることで、季節を確認して、コミュニティを形成して、次世代へ継承していく。日本は米に対する特別な思い入れがあります」

しかし、それは日本だけではない。「タイ人は『タイは米の国だ』と言い、日本のように米を特別な存在として見ています」と佐藤は言う。

日本とタイの1日の国民1人当たりの消費量を見ると、タイではコンビニサイズのおむすび7個に対して、日本は2個半ほど(2011年「FAO CAST」統計を基にした「トリップアドバイザー」資料より)。

タイの食生活において、米は今も昔も欠かせない存在だが、日本の米消費量は約40年前の1962年度から減少し続けており、ここ数年は毎年10万トンずつも減っている。これからもタイのように「米の国」と言えるのか心もとない。

文=柏木智帆

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