選択肢を増やしたい。和田彩花「アイドル宣言」の真意 #30UNDER30


アイドルの世界では、男性中心的な目線の“女の子らしさ”が求められる。清楚さ、純粋さが大切。真っ赤な口紅は咎められ、黒いネイルを塗りたかったが、「透明な爪がいい」と周囲の大人に言われる。自分ではなく「アイドルとはこうあるべき」という偶像であることを求められる世界は、いつもどこか息苦しかった。アイドルを始めた幼いころは気づかなかった、不平等や性差別。

「その違和感に気づかせてくれたのが、アートでした」

アートとの出会い。自分の居場所はここなのだと感じた


和田の人生が大きく変わった瞬間が、明確にある。高校1年生の頃だ。母親と19世紀フランスの画家、エドゥアール・マネの展覧会に行き、『死せる闘牛士』という絵に強く惹かれた。

衝撃を受けた和田はのめり込むように美術史の勉強をはじめ、アイドル活動をしながら大学院に通うようになった。

芸術家たちは、美術史を更新するセンセーショナルな作品を世に出すだけでなく、ジェンダーやフェミニズムをはじめとした社会問題に新しい視点から切り込む。和田はその視点からアイドルの世界を見つめ、衣装やメイク、ライブパフォーマンスなどの製作過程から垣間見える、男性中心主義的な社会構造に自覚的になった。

こうした環境への違和感を募らせながら、和田は一つの深い悩みを抱えるようになる。

「自分のセクシャリティに疑問を持つようになったんです。恋愛や結婚にまつわる価値観への疑問と同時に、自分のセクシャリティが明瞭ではないことに気づきました」

行き場を見失い、不安に苛まれていた彼女。救ったのも、アートだった。彼女はアーティストグループ『ダムタイプ』のパフォーマンス『S/N』の舞台映像を観て、価値観を大きく揺さぶられる衝撃を受けた。

S/Nは「シグナル/ノイズ」を意味するオーディオ用語で,2項対立を象徴する言葉と捉えられる。舞台上で自らのセクシャリティをカミングアウトするパフォーマー達。ゲイであり、HIV陽性であることを明かしながら、ドラァグクイーンに変身するパフォーマーもいた。生々しく鮮烈なパフォーマンスで、現代社会の問題を真正面から投げかけた。

「S/Nをみて、生き方はカラフルでいいと気づいたんです。漠然と抱いていた不安も整理された。そして『私の居場所はここにあるんだ!』と心の底から感じました」
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写真=映美 文=田中一成

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