日常のなかで、直視するには躊躇するような史実や現実を、Chim↑Pomは作品を通して白日のもとに晒す。ときには物議や批判を呼び、自粛要請を受けながら。そこには誰かへの忖度やおもねる姿勢なんて微塵もないように見える。
卯城竜太、林靖高、エリイ、岡田将孝、稲岡求、水野俊紀の6名から成るアーティストコレクティブ、Chim↑Pom。その作品は国内のみならず、NYのグッゲンハイム美術館やパリのポンピドゥ・センター国立近代美術館など、海外のミュージアムでコレクションされている。
昨年だけでもアメリカやフランスなど10カ国で展示を行なった。文字通り「世界に通用する日本人」を体現する彼らから見た、日本のUNDER30とは。リーダーの卯城とフロントウーマンのエリイに話を聞いた。
マンチェスターに遺る「パンデミック」の歴史
「“偶然”ではないかな。よく観察していれば、辿り着く」と、エリイはこともなげにそう話す。
さかのぼること1年強、2019年7月。Chim↑Pomはいまを予見するような展示を行なっていた。イギリスのマンチェスター国際芸術祭に招聘された彼らは、ヴィクトリア駅の地下廃トンネルに仮設のビール醸造所をつくった。その名は「A Drunk Pandemic(酔いどれパンデミック)」だ。
19世紀半ば、マンチェスターではコレラが大流行し、4万人もの人々がヴィクトリア駅周辺に埋葬された。産業革命によって都市に人口が集中したものの、未整備だったインフラによって都市環境は悪化の一途をたどった。コレラの流行はその代償でもあった。
当時、生き残った人々は水の代わりにビールを飲んでその災禍を凌いだという。真水よりも、醸造工程で煮沸されるビールのほうが“衛生的”とされたからだ。
Chim↑Pomは多くのコレラ犠牲者が眠るその場所で、「A Drop of Pandemic」というビールを醸造し、醸造所に併設したパブで来場者に振る舞った。
一方でパブに設置した公衆トイレの下水を処理し、セメントと混ぜてレンガをつくり、建設資材として街へと送り出した。ビール、下水、レンガ。その意図的なサイクルによって可視化されたのは、酵母という有用な“細菌”の存在だ。そしてもちろん、コレラもまた細菌の一種である。