ビジネス

2020.10.23

LVMHとティファニーの訴訟合戦 マクロンとトランプの代理戦争か

Getty Images


企業買収をめぐって、コロナ禍のような想定外の環境が生まれたとして、契約を反故にし、それによって訴訟が起こるケースは珍しくない。しかし、契約破棄の主要因として政府の指導の「お手紙が来ちゃったからしょうがない!」とするのは珍しい。

また、このご破算になるスピードは尋常でなく、フランス政府とLVMHの間で事前に相当な根回しがあったことをうかがわせる。LVMHにあてた行政指導文書が世界中に公開されたが、こんなケースは珍しい話だ。

訴訟合戦にしなければならない理由


これに対して、9月9日、ティファニーはLVMHを訴えるに至った。こちらも尋常でないスピードで、120ページにもわたる訴状をたった9日で用意した。実際にはそんなに短期間で用意できるはずもないので、おそらく以前から準備していたのだろう。ティファニー側が、婚姻へ向けて進めていた一方で、いつ破談の話が降ってくるか身構えていたのがわかる。

その約3週間後の9月28日、今度はLVMHが反訴に出た。LVMHは、破談の主要因をティファニー側によるコロナ禍での経営ミス(実際、今年の最初の四半期で、ティファニーは前年比45%、つまり半分も売上を落としていた)によるものだと付け加えての反訴だった。まさに感情的な泥試合となっている。

このように、ただちに訴訟合戦にしなければならないのには理由がある。CNBCテレビによれば、買収契約には、11月24日という買収期限が定められており、これを超える場合には、理由なく契約破棄ができることが認められているのだ。

従って、1月6日に延ばされてしまうことは、単なる40日程度の期限延長ではなく、LVMHに手ぶらで破談をさせてしまうことになるので、ティファニーは焦り、かつ身構えていたということだった。

世紀の約1兆6000億円の買収は、ほぼ実現不可能と見られている。もともと互いを熟知した間柄であることから、問題は「値段だけ」。つまり今回の騒動は、LVMHがフランス政府と結託して、ティファニーの業績低迷に乗じて買収価格を下げさせるための戦略に出たと見る向きもある。

ウォール・ストリート・ジャーナルの9月9日の質問に答えて、フランスのマクロン大統領は、「重要な国際貿易上の交渉であれば、フランス政府は馬鹿正直でも受動的でも」ないと、意味深なコメントを返している。ある意味、マクロンとトランプの代理戦争とも言えそうな訴訟合戦なのかもしれない。

連載:ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
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文=長野慶太

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